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知識をどう広げるべきか 〝依頼者ファースト〟と言うけれど

知識をどう広げるべきか 〝依頼者ファースト〟と言うけれど

宅建マイスターや公認 不動産コンサルティングマスターにはコンプライアンス意識はもちろん、〝依頼者ファースト〟を実現するためには、今やかなり幅広い知識が求められる時代になった。

特にコンサルティングマスターの場合は、不動産に関する深い知識と同時に社会全般に関する幅広い知見がなければ、依頼者の期待に応えることは難しい。

しかし、コンサルティングマスターといえども万能ではないから、そこになんらかの線引き、いい意味での見極めが必要だろう。これだけ情報の海が広がる中で、どのように自分なりの網を投げるべきか――。

どのような網であれ、最も大事なことはマスターあるいはマイスターとしての誇りがもてるかどうかである。

その「プロとしての誇り」がどこから生まれるかといえば、自分が得た知識や知見で「この世を自分なりに解釈するストーリー」が出来ているかどうかである。

まさに、依頼者ファーストの根底には〝自分ファースト〟があっていい。

一方、宅建士に求められる知識も、昔に比べかなり広がっているのが現実だ。

その中で特に、今日的ニーズを挙げるとすれば、
①住宅ローンに関する最新情報
②建物の査定能力
成年後見制度と家族信託に関する基本知識
――の3点となるのではないだろうか。

①は昔と違い、住宅購入後もライフスタイルや働き方が多様に変化する今日、依頼者に最もマッチしたローンを選択するためには、最新の金融情勢を理解しておく必要がある。

②は住宅の資産価値や耐久性に購入者の関心が高まっていることを踏まえれば、工法によっても異なる建物の特性に精通し、中古であっても購入時の価値を的確に判断する能力が求められる。

③は2025年には700万人、65歳以上の5人に1人が認知症になるといわれている今日、この両制度に関する知識は欠かせない。周知のごとく、高齢者が意思能力を失えば家族といえども勝手に本人の自宅など不動産を売却することはできない。契約後に家族などから意志能力がなかったなどと訴えられるトラブルも増えている。
対策としては、本人が判断能力を失う前に任意後見人を選んでおくか、家族信託契約を結んでおく必要がある。しかし、往々にして、親が認知症になってから自宅などが資産凍結状態になってしまい、慌ててしまうのが普通である。その場合は法定後見人を家庭裁判所で選任してもらうしかない。それでも自宅売却までには煩雑な手続きや時間がかかるし、家裁から自宅売却の許可が出るとも限らない。費用もかかる。

そのようなことを普段から地域住民に情報として提供しておくことが信頼確保と依頼者ファーストにつながっていく。

 

執筆者

本多信博氏 住宅新報 顧問

1949年生まれ。長崎県平戸市出身。早稲田大学商学部卒業。住宅新報編集長、同編集主幹を経て2008年より論説主幹。 2014年より特別編集委員、2018年より顧問。
著書:『大変革・不動産業』(住宅新報社・共著)、『一途に生きる!』(住宅新報社)、『百歳住宅』(プラチナ出版)、『住まい悠久』(同)、『たかが住まい されど、住まい』(同)、『住文化創造』(同)など
現在、住宅新報に連載コラム「彼方の空」を執筆中。