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持続可能なまちづくり担う不動産業~核家族化の弊害乗り越え~ ― 住宅評論家 本多信博

 

持続可能なまちづくり担う不動産業~核家族化の弊害乗り越え~

SDGsは持続可能な開発目標として17項目を掲げているが、そのなかのひとつに「住み続けられるまちづくり」がある。住み続けられるまちにするためには住民同士の豊かなコミユニティと、住民の地域に対する深い愛着が育つまちでなければならない。しかし、日本の地域社会の現実は独居老人、生涯未婚者や離婚の増加による全世代間での単身化、少子化による人口減少、空き家増加で衰退化が進んでいる。

その大本にあるのが核家族という家族形態にあると筆者は考える。核家族は一世代ごとに家族という組織が細胞分裂を繰り返す。そのためどの家庭も子育て環境に厚みがないので少子化が進む。子供が成長し独立すると子世帯から切り離された高齢者(親世帯)の単身化が進む。こうした核家族社会では「一度きりしかない自分の人生を大事にしたい」と考える傾向が強まり、生涯未婚者や離婚が増えるので社会全体の単身化が進む。

 

では、どうすればいいのか。親世帯と子世帯の近居が核家族社会の脆弱さを補う有効な施策となる。その際に大事なことは親が独り暮らしや要介護状態になってからの〝後追い近居〟ではなく、子供が独立するときから親世帯の近くに住むようにする〝計画近居〟を推進することである。

その好機が出現している。総務省の23年住宅・土地統計調査によれば、我が国の空き家900万戸のうち、いわゆる〝利用目的なし空き家〟は385万戸もある。我が国の持ち家率はおおむね60%なので持ち家総数約3900万戸(総世帯数6500万戸×0.6)に対する目的なし空き家の比率は約1割となる。10軒に1軒の空き家があるということは親の家から見て〝向こう三軒両隣・裏手4軒〟のどこかに空き家がある計算だ。しかも今後その数が増えていく。

増え続ける空き家を活用して親子の近居政策を進めれば自治体にとっては定住人口の確保につながるし、国にとっては子育て環境に厚みが生まれるので少子化対策の大きなバックボーンになる。人生100年時代、高齢者が子供や孫の姿を近くに見ながら生きがいをもって生活すれば健康寿命も伸びるから医療費削減というおまけまでついてくる。

ただし、そのためには空き家がいつでも購入または借りることができるように維持管理が行き届いた流通市場になっていることが必要だ。現状では活発といえない地元不動産会社による空き家管理ビジネスへの積極関与が求められることになる。そのため国土交通省も今年6月には「不動産業による空き家対策推進プログラム」を発表している。

 

空き家を流通市場に乗せるためには、売却か賃貸かなど〝一からの相談〟に応え得る懇切丁寧なコンサルティングが求められることになる。

いずれにしろ、高齢者の一人暮らしを加速させる核家族社会の弊害を乗り越え、持続可能なまちづくりを進めるには国と行政が連携した計画的近居という社会工学的変革を進めるしかなく、不動産業はその中核を担うことになる。

 

執筆者

本多信博氏 住宅評論家

1949年生まれ。長崎県平戸市出身。早稲田大学商学部卒業。住宅新報編集長、同編集主幹を経て2008年より論説主幹。 2014年より特別編集委員、2018年より2024年6月まで顧問。
著書:『大変革・不動産業』(住宅新報社・共著)、『一途に生きる!』(住宅新報社)、『百歳住宅』(プラチナ出版)、『住まい悠久』(同)、『たかが住まい されど、住まい』(同)、『住文化創造』(同)など
現在、住宅新報に連載コラム「彼方の空」を執筆中。

 



 

《メディア紹介「住宅新報」10/15号》国交省 平田研不動産・建設経済局長に聞く 不動産コンサル推進に意欲

《メディア掲載「住宅新報」10/14号》国交省 平田研不動産・建設経済局長に聞く 不動産コンサル推進に意欲

住宅新報2024年10月15日号3面のインタビュー記事に、「不動産業による空き家対策プログラム」の推進における、不動産コンサルの重要性と当センター及び公認 不動産コンサルティングマスターに期待する役割について記載されています。

ぜひご覧ください。

www.mlit.go.jp

 

▼Web記事を読む

住宅新報web

国交省 平田研不動産・建設経済局長に聞く 不動産コンサル推進に意欲」

https://www.jutaku-s.com/newsp/id/0000060755

住宅新報webのサイトが開きます(要会員登録・有料)。

感性の時代と宅建士 ~人の心を読む仕事~ ― 住宅評論家 本多信博

住宅供給事業者が住宅購入者の住まいに対する感性に注目し始めた。

たとえば積水ハウスは8月24日から10月7日までの限定で、顧客自身が〝自分の感性に気付く場〟とすべく6つのモデルハウスを茨城県つくば市に展示する。

これは一般的な住宅展示場のように大きな住宅ではなく、リアルサイズで同じ間取りの住宅に異なる6つのインテリアデザインを施し、顧客がそれらを同時に比較・検討し体感するための「場」を提供するもので、同社としても初の試みとなる。

各デザインの特徴はHPで見ることができるが、それぞれ「静」「優」「凛」「暖」などをモチーフにしている。要するに住宅が〝所有する〟ものから〝暮らしを楽しむ〟器へと変化しつつあるということだ。

ただ、近年のこうした傾向はあくまで「新築市場」で見られるものであり、既存住宅の市場ではいまだに立地・築年数・間取り(面積)などの物理的要素が選択基準となっている。とはいえ既存住宅の購入者も自分の感性にマッチした住まいを求めていることに変わりはない。新築市場のようにそれを推し量る場が与えられていないというだけのことである。唯一「リノベーション」がそうしたニーズに応えているというべきだろうか。しかしそれも自分の感性を生かし全面改修(フルリノベーション)する事例は極めて少ない。

 

こうした状況のままでは住宅流通市場の本格的発展は望めない。立地や築年数、面積は変えられないし、間取り変更にも多額の費用が掛かるからだ。そこで重要な役割を担うのが物件選びをサポートする宅建士の提案能力である。それは、ユーザーの志向が「所有」から暮らしを楽しむ「利用」へ移行しているのはなぜかと深く考えるところから始まる。

普通に言われていることは、消費者のニーズが「モノ」から「コト」(体験)へ変化してきているということだ。ただ、それだけではない。そうした心理の背景には、今の時代全体が機械(デジタル)文明に覆われ、人間関係が形骸化し砂漠化しているため、人々の心が潤いを求め、ヒトとヒトとのつながりにより重い価値を置き始めているということである。その潤い・癒しを求める心が住まいという大事な場所選びに際して噴出し始めたというべきだろうか。

仲介担当者としての宅建士には、そうした時代の宿命、社会の形骸化、人々の心の焦燥感を読み取る能力が求められているし、同時に個々人についてその心の渇きが那辺にあるのかを知らなければ、本当の意味で顧客に寄り添う仕事をしたことにはならない。本当のニーズを把握できれば、物理的な立地(勤務先までのアクセスなど)よりも町全体がもつ空気感、築年数よりも近隣コミュニティの質に価値を見出すことも可能となる。また、大規模な間取り変更ではない一点豪華主義のような手法も選択肢となり得るかもしれない。まさに、宅建士の仕事は人間の心を読むところから始まる。

 

執筆者

本多信博氏 住宅評論家

1949年生まれ。長崎県平戸市出身。早稲田大学商学部卒業。住宅新報編集長、同編集主幹を経て2008年より論説主幹。 2014年より特別編集委員、2018年より2024年6月まで顧問。
著書:『大変革・不動産業』(住宅新報社・共著)、『一途に生きる!』(住宅新報社)、『百歳住宅』(プラチナ出版)、『住まい悠久』(同)、『たかが住まい されど、住まい』(同)、『住文化創造』(同)など
現在、住宅新報に連載コラム「彼方の空」を執筆中。

 



 

人間のデジタル化を憂う ― 住宅評論家 本多信博

人間のデジタル化を憂う

不動産業界のデジタル化、DX(デジタル・トランスフォーメーション)が着々と進んでいる。業務を効率化し、それによって新たに生み出された時間で顧客とのコミュニケ―ションを深めたり、蓄積されたデータを活用してビジネスモデルの変革を行っていくことが不動産業界の進化につながっていく。

電子契約の普及・拡大も確実視されている。なにしろ生まれたときからIT(情報技術)やスマホに慣れ親しんできている世代がこれからの顧客となってくる。今はまだ対面や紙を使った契約を希望する人の割合が多いようだが、いずれは逆転していくことになる。膨大な情報にどこからでもアクセスでき、瞬時に処理・活用できるICT(情報通信技術)によるタイムパフォーマンス効果を身に着けた世代がなんにつけ、その利便性を手離すことはあり得ないからだ。

ICTが苦手と言われる中小不動産業者も心配するに及ばない。従業員の世代交代が進めば自然に解消していく問題だからである。本当の問題はその先にある。事業者と顧客との通信がすべてデジタル化され、そこにAIによるチャット能力が加われば、〝人間力〟の出番がなくなっていく。「人にしかできないことは必ずある」と簡単に片づけてはいけない。

携帯電話やメールの普及で古い世代は人間関係の機微を忘れ、若い世代はそもそもそうしたものの存在を知らないように思う。「AI効果」という言葉がある。AIが進化するにつれ、昔の簡単なAIをAIとは思わなくなることを言う。例えば昔はカシオの計算器に驚いたものだが、今はお掃除ロボットにさえ驚かない。

つまり、人間は機械文明が発達するにつれ、その感性も凡庸化していく生き物なのだ。「人にしかできないこと」は何かという議論で、住宅購入を検討し迷っている顧客を最後に決断させるのは担当者の人間力だという言い方がある。しかし、その人間力の劣化に担当者自身も顧客のほうも気付かない時代がすでに始まっているとしたらどうなるのか。

どんなにAIが進化しても、人にしかできないことは必ずあるというならば、人の脳と、人がつくる人工知能(AI)とはどう違うのかを明確に説明する必要がある。しばしばAIに心はないというが、心とはなにか。簡単にいえば「感情」だが、人間が感情を抱くのはその時々の目的を果たすためだという〝目的論〟を唱える心理学者もいる。ならば、AIにある目的を果たすためには、こういう感情(怒り、悲しみ、喜び、称賛など)を表現すればよいと学習させれば、AIが心を持ったことにならないか。

デジタル化の進展が人間からリアリティ(たとえば人間関係の機微に気付くことなど)を奪い、タイムパフォーマンス意識が現代人の行動を形骸化していないかという懸念を抱き続けることが、人にできる唯一のことと言えば言い過ぎだろうか。

 

執筆者

本多信博氏 住宅新報 顧問

1949年生まれ。長崎県平戸市出身。早稲田大学商学部卒業。住宅新報編集長、同編集主幹を経て2008年より論説主幹。 2014年より特別編集委員、2018年より顧問。
著書:『大変革・不動産業』(住宅新報社・共著)、『一途に生きる!』(住宅新報社)、『百歳住宅』(プラチナ出版)、『住まい悠久』(同)、『たかが住まい されど、住まい』(同)、『住文化創造』(同)など
現在、住宅新報に連載コラム「彼方の空」を執筆中。

 

《最終回》建築散歩!No.50「スパイラル」~マスターと共に歩む、街歩きを兼ねた建築物の探訪~

建築散歩!No.50「スパイラル」

今回は「槇文彦(まきふみひこ)」設計の建築を見ていきましょう。東京メトロ銀座線、千代田線、半蔵門線の「表参道」駅が最寄り駅で、東京都港区南青山5丁目の「スパイラル:1985(昭和60)年築」です。骨董通り青山学院大学方面出口を出てすぐのところにあります。皆様でもご利用されていらっしゃる方もいるのではないかと思います。

槇文彦は、国内外で多数作品を生み出していますが、国内での代表作といえるものに「ヒルサイドテラス(代官山)」や「幕張メッセ」があります。

この10数年で、日本人建築家が5名プリツカー賞(通常年1回1名:建築界のノーベル賞とも言われています)を受賞していますが、1993年、日本人では2人目(丹下健三に次いで)の同賞受賞の栄誉に輝いています。(これまでに日本人建築家は8名受賞です。)

この記事を書いた2023年までは、8名(丹下健三氏、槇文彦氏、安藤忠雄氏、妹島和世氏・西沢立衛氏、伊東豊雄氏、坂茂氏、磯崎新氏)でしたが、2024年・山本理顕氏が受賞決定し、9名となる予定です。

建築散歩!No.50「スパイラル」
建築散歩!No.50「スパイラル」
建築散歩!No.50「スパイラル」
建築散歩!No.50「スパイラル」
建築散歩!No.50「スパイラル」
建築散歩!No.50「スパイラル」
建築散歩!No.50「スパイラル」
建築散歩!No.50「スパイラル」

建築散歩!No.50「スパイラル」

建築散歩!No.50「スパイラル」

建築散歩!No.49「江戸東京博物館」「スカイハウス」~マスターと共に歩む、街歩きを兼ねた建築物の探訪~

建築散歩!No.49「江戸東京博物館」「スカイハウス」

今回は「菊竹清訓(きくたけきよのり)」設計の建築を見ていきましょう。JR総武線「両国」が最寄り駅で、東京都墨田区横網1丁目の「江戸東京博物館:1993(平成5)年築」です。

5月下旬に現地を訪れましたので、隣の両国国技館は大相撲夏場所の終盤で盛り上がっていました。残念ながら、現在、改修工事中で囲われていましたが、巨大なピロティ形式の外観は確認できました。工事は2025年度まで続くようです。

菊竹清訓は、丹下健三黒川紀章槇文彦(次回取り上げます)らとともにメタポリズムを主張していた建築家の一人です。実際に新陳代謝が可能な建築として、自宅で具現化しています。No.23鳩山会館の近くにある「スカイハウス(文京区大塚1丁目)」がそれです。

斜面地に建っていて、写真では少し分かりづらいかもせれませんが、建築当初より1階から下へ建物を増加させているようです。

No.3で取り上げた「伊東豊雄」の師匠でもあります。令和5年7月には、日経新聞の末尾「私の履歴書」を伊東豊雄が綴っていました。

建築散歩!No.49「江戸東京博物館」
建築散歩!No.49「江戸東京博物館」
建築散歩!No.49「江戸東京博物館」
建築散歩!No.49「江戸東京博物館」
建築散歩!No.49「江戸東京博物館」
建築散歩!No.49「江戸東京博物館」
建築散歩!No.49「江戸東京博物館」
建築散歩!No.49「江戸東京博物館」
建築散歩!No.49「江戸東京博物館」
建築散歩!No.49「江戸東京博物館」

建築散歩!No.49「江戸東京博物館」

建築散歩!No.49「江戸東京博物館
建築散歩!No.49「スカイハウス」
建築散歩!No.49「スカイハウス」
建築散歩!No.49「スカイハウス」
建築散歩!No.49「スカイハウス」
建築散歩!No.49「スカイハウス」

建築散歩!No.48「パレスサイドビル」~マスターと共に歩む、街歩きを兼ねた建築物の探訪~

建築散歩!No.48「パレスサイドビル」

今回は日建設計工務(株)(現、(株)日建設計)の「林昌二(はやししょうじ)」設計の建築を見ていきましょう。

東京メトロ東西線「竹橋」が最寄り駅で、東京都千代田区一ツ橋1丁目の「パレスサイドビル:1966(昭和41)年築」です。

ここは駅直結のビルで、毎日新聞東京本社も入っています。コンサル基本テキストの執筆や当センターの講座や基礎教育などでお世話になっている村木信爾先生が所属されている大和不動産鑑定㈱も入居されています。

梅雨に入ったところで、雨は止んでいましたが曇天で、せっかくの白く丸いエレベーターホール&トイレ&階段室が空に溶け込んでしまいました。写真は少々残念ですが、機能性の高い建物と印象的なデザインは時間が経っても色褪せません。建物躯体は長く使い、設備は交換しやすいように設計しているらしいです。外観に取り付けられている日よけルーバーと竪樋(雨樋)も見ものです。

組織事務所の作品は、基本的には取り上げずに来ましたが、今回の林昌二は建築家としても様々な作品を手がけているので特別に取り上げることにしました。

建築散歩!No.48「パレスサイドビル」
建築散歩!No.48「パレスサイドビル」
建築散歩!No.48「パレスサイドビル」
建築散歩!No.48「パレスサイドビル」
建築散歩!No.48「パレスサイドビル」
建築散歩!No.48「パレスサイドビル」
建築散歩!No.48「パレスサイドビル」
建築散歩!No.48「パレスサイドビル」
建築散歩!No.48「パレスサイドビル」
建築散歩!No.48「パレスサイドビル」
建築散歩!No.48「パレスサイドビル」
建築散歩!No.48「パレスサイドビル」
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建築散歩!No.48「パレスサイドビル」

建築散歩!No.48「パレスサイドビル」

建築散歩!No.48「パレスサイドビル