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古い慣習からの脱却なるか 賃貸管理業法の波紋広がる

古い慣習からの脱却なるか 賃貸管理業法の波紋広がる

 

「賃貸住宅の管理業務の適正化に関する法律」(管理業法)が21年6月に完全施行されてから2年余が経過した。当初、不動産業界の管理業法に対する反応は穏やかなものだった。2本立ての一つ、サブリースを悪用する不良業者に対する規制は当然だし、もう一方の管理業者に対する登録制度についても、より質の高い管理を行う業者がオーナーや入居者から高い信頼を得られようになるという当然の効果を期待するものだったからである。

しかし、ここに来て管理業法の波紋はそこにとどまらず、賃貸業界の古い慣習全体に風穴をあける方向に向かい始めた感がある。そう予感させたのは、日本賃貸住宅管理協会(日管協)が8月4日に正式に発足させた「賃貸管理リーシング推進事業者協議会」(以下、協議会)の設立趣意である。

そこにはこう記されている。

「当協議会は(中略)賃貸住宅管理事業者と賃貸住宅仲介事業者の役割と責任を見直すことに加え、新たな業務報酬を模索する〝リーシング管理〟のガイドラインの研究や、管理事業者・仲介事業者が相互理解を深める研究会を中心に活動していく」

要するに、管理業務に対する新たな管理報酬を模索するということである。現在、管理報酬は「家賃の5%」が慣習化しているが、特段の根拠があるわけではない。受託競争が激化する中、管理業務の高度化・多様化が進んでいるものの、管理報酬が従来からの古い慣習に張り付いたままでは、管理業そのものの発展を阻害しかねないという危機感が背景にあると思われる。

そこで、料率はともかく現行の家賃連動制がいいのか、それとも定額制にすべきか。それも毎月払いか、年一括払いとすべきか。更には、その年の家賃収益に応じて払われる〝ボーナス制度〟を導入すべきかなど幅広い検討が行われる予定だ。特に、ボーナス制度はその年の家賃収益が一定の成果を上げたときに支払われるもので、オーナーの理解も得やすいうえに、管理会社のモチベーションアップにもつながるため、十分検討に値するという。つまり、管理業法が施行されたことで管理報酬の自由化・多様化が加速する可能性が出てきた。

そして、こうした管理報酬に対する新しい考え方は隣接する賃貸仲介業務の手数料や、更には売買仲介の手数料のあり方にも波及する可能性がある。賃貸仲介も売買仲介も現行の手数料は、大臣告示の上限規定通りという慣習がある。しかし、これからの仲介業務は管理同様にその役割と責任が鋭く問われる時代になる。当然、その報酬についても提供される業務の質に応じたものにすべきという考え方が強まってくるはずだ。そうであってこそ市場メカニズムが働き、業界の健全な発展につながっていく。

というより、管理報酬が多様化・自由化していく中で、仲介手数料だけが現行のままなら、仲介業そのものの衰退につながりかねないという懸念すら抱かざるを得ないだろう。

 

執筆者

本多信博氏 住宅新報 顧問

1949年生まれ。長崎県平戸市出身。早稲田大学商学部卒業。住宅新報編集長、同編集主幹を経て2008年より論説主幹。 2014年より特別編集委員、2018年より顧問。
著書:『大変革・不動産業』(住宅新報社・共著)、『一途に生きる!』(住宅新報社)、『百歳住宅』(プラチナ出版)、『住まい悠久』(同)、『たかが住まい されど、住まい』(同)、『住文化創造』(同)など
現在、住宅新報に連載コラム「彼方の空」を執筆中。