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時代を読む ― 媒介報酬の自由化に備えよ

時代を読む ― 媒介報酬の自由化に備えよ

媒介報酬の自由化はいずれやってくる。すでに東京では10億円以上もするような新築マンションが売れている。何億円で売ろうと規制はない。当然である。流通市場の仲介サービスも同じである。より高度なサービスを求める人たちに、これまでなかったような質の高いサービスで応えようとしても上限規定のために出来ない現状に、流通業界もいずれ矛盾を感じるようになるはずだ。

「高額物件なら仲介手数料も高額になるから十分なサービスができる」という反論も聞こえてきそうだが、本当にそうだろうか。仲介手数料の額に応じてコストを掛けサービスの質を上げる努力をしている会社が実際どれぐらいあるのか。サービスの質は一定でも高額物件ほど手数料が多くなるところに魅力を感じている会社のほうが多いのではないだろうか。

つまり、現状のように媒介報酬規程による決まった枠内で企業が競争している間は、流通市場に真の発展はないというのが筆者の見解である。そもそも、AIがビジネスの隅々(いや中枢)にまで入りこむようになった時代に、1970(昭和45)年に定められた規定が今でも使われていること自体、市場の発展とはそぐわない感じを抱かざるを得ない。

 

媒介報酬の自由化は意外な方向からやってくる可能性がある。それは賃貸住宅管理業法の施行(2021年6月)によって管理業務が注目されるようになったが、管理報酬にはもともと規制がないし、今後も自由市場の中で企業が互いに競争することで市場の発展が期待されているからだ。

また、今年半ばをめどに国土交通省が策定する「空き家管理業のガイドライン」でも、空き家管理業務に係る報酬などについての解釈の明確化とルールが提示されることになっている。これは規制ではなく、空き家管理といってもその内容は様々なので、「ここまですればこの程度の報酬をもらってもいいのではないか」という目安を示すことで不動産業者が空き家業務に参入しやすくするのが狙いである。

このように、これからは媒介とは別の業務が自由市場の中で広がっていき、発展していけば、規制の枠の中にある媒介市場の非近代性が浮かび上がってくるのは必定だろう。時代の先を読むべき立場にある宅建士は、「媒介報酬自由化後に求められる新しいサービスとは何か」についての賢察が必要だ。

4月の入社式における不動産会社の社長訓示に共通していたことは「新しい価値の創出」である。まさに、これまでになかったサービスで新しい価値を顧客に提供することである。その努力がなければ、少子化と人口減少で不動産市場は減退の一途をたどるしかない。新設住宅着工の減少が見えている中、期待がかかる流通市場だが、ストックは増えても「マイホームが一生に一度」の買い物にとどまっている限り減退は避けられない。

 

媒介サービスの質向上で一生に二度、三度の住み替え需要を発掘していくことこそ宅建士や公認 不動産コンサルティングマスターの使命となる。

 

執筆者

本多信博氏 住宅新報 顧問

1949年生まれ。長崎県平戸市出身。早稲田大学商学部卒業。住宅新報編集長、同編集主幹を経て2008年より論説主幹。 2014年より特別編集委員、2018年より顧問。
著書:『大変革・不動産業』(住宅新報社・共著)、『一途に生きる!』(住宅新報社)、『百歳住宅』(プラチナ出版)、『住まい悠久』(同)、『たかが住まい されど、住まい』(同)、『住文化創造』(同)など
現在、住宅新報に連載コラム「彼方の空」を執筆中。