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住み替え市場拡大で日本を元気に

住み替え市場拡大で日本を元気に

一生に一度しか家を買わないのに、それを「終の棲家」と呼ぶのもおかしな話だ。本来なら何度か住み替えて、ここが最期を迎えるにふさわしい家だと思い定めてこその話ではないだろうか。日本は20代や30代の若いときに買った家にそのまま一生住み続ける人たちが多い。

流通先進国のアメリカでは生涯に10回以上買い替えるケースもめずらしくないという。だからといって日本のスタイルを否定するわけではない。家は思い出が積み重なってこそ愛着がわくという感性も捨てがたい。気になるのはそれもこれまでの話で、日本もこれからはアメリカ型に向かわざるを得ないのではないかという予感である。

というのも、もはや20代、30代で家を買い、35年の住宅ローンを払い続けるという雇用環境ではない。だいいち、住宅ローンを払い続けるために、つらいことやいやなことも我慢して一つの会社にしがみつくという価値観がこれからの時代に通用するとも思えない。

とはいえ、アメリカのように所得が上がるたびに持ち家を次から次へと買い替えていくという状況が日本に訪れるとも思えない。例外を除けば多くの勤労者世帯では職場や働き方が変化する可能性が高い若いうちは賃貸住宅での住み替えを中心とし、金融資産の蓄積や年代に応じ、持ち家での住み替えに移行していく、そうした〝住宅人生〟がポピュラーになっていくのではないか。

不動産業界としても、急激な人口減少というマーケットの量的縮小を乗り越えていくためには、ファミリータイプを含む良質な賃貸住宅の供給とその管理業の充実、持ち家での住み替え促進(一生に1~2回)という市場ビジョンが必要になってくると思われる。

賃貸時代も含め、生涯での住み替え回数が多くなれば、借り手や買い手はこれまで以上に自分たちの身になって専門的な情報とアドバイスを提供してくれるエージェントの必要性を強く認識するようになるだろう。そうなれば、不動産業界のコンプライアンスは自然に高められていくのではないだろうか。

〝人生100年時代〟を迎えても、日本人が物心ともに豊かで充実した生活を送れるようにするために住まいが果たす役割は大きい。そうした役割を業界が果たしていくためには、これまでのように賃貸と持ち家を分断的に捉えるのではなく、互いに補完し合い、それぞれの利点を長い人生にうまく取り込みながら住み替えていく賢い選択を消費者に選択してもらうという発想が必要だ。

そうした業界と市場の変革を担うのが明確なコンプライアンス意識と高い志をもって依頼者(借り手・買い手)のために働くエージェントであることは言うまでもない。

 
執筆者

本多信博氏 住宅新報 顧問

1949年生まれ。長崎県平戸市出身。早稲田大学商学部卒業。住宅新報編集長、同編集主幹を経て2008年より論説主幹。 2014年より特別編集委員、2018年より顧問。
著書:『大変革・不動産業』(住宅新報社・共著)、『一途に生きる!』(住宅新報社)、『百歳住宅』(プラチナ出版)、『住まい悠久』(同)、『たかが住まい されど、住まい』(同)、『住文化創造』(同)など
現在、住宅新報に連載コラム「彼方の空」を執筆中。