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取得費の話 その2 ― 『不動産フォーラム21』編集余話 ―

取得費の話 その2 ― 『不動産フォーラム21』編集余話 ―

購入金額などが不明だが、概算取得費(譲渡収入の5%)で計算すると税額が大きくなってしまうのでこれを避けたいといった場合、どうすれば概算取得費よりも多くの取得費がかかったと証明できるのか。税理士などのサイトの多くでは、国税不服審判所のある裁決事例を引いて、「市街地価格指数」「着工建築物構造別単価」により計算する方法を紹介しています。このように書くと、納税者側が採用した方法が裁決により認められたのだと思われるかもしれませんが、実際は逆で、税務当局が主張したものでした。

国税不服審判所の平成12年11月16日の裁決事例です(https://www.kfs.go.jp/service/JP/60/19/index.html )。

以下、裁決書(抄)を基に見ていきましょう。

確定申告について税務当局が更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったことに対する審査請求の事例で、不動産の取得費が主な争点となっています。昭和59年に取得し、平成9年に3,150万円で売却した不動産について、納税者は取得費を3,260万円余(宅地分3,000万円+増改築費(減価償却費控除後))として申告しました。税務当局は、この3,000万円について、証拠となる資料の提出がなく、調査しても明らかにできなかったので、合理的な算定方法によらざるを得ない、として自ら検討します。そして、土地と建物のいずれの取得価額もわからない場合に考えられる算定方法として、次の4つを挙げています。

 

(1) 租税特別措置法第31条の4(長期譲渡所得の概算取得費控除)を適用する方法
(2) 土地の取得価額は土地の取得時の売買実例から算定し、建物の取得価額は譲渡価額の総額から土地の譲渡時の売買実例価格を差し引いて算出された建物の譲渡価額から減価償却費を控除する方法
(3) 土地と建物の固定資産税評価額を基に算定する方法
(4) 建物の取得価額を着工建築物構造別単価(建築物単価)から算定し、土地については市街地価格指数を基に算定する方法

 

その上で、それぞれの妥当性を検討し、冒頭に記したように(4)を採用することになるわけです。

(1)~(3)の不採用の理由は何かというと、(2)は、「土地の譲渡及び取得に係る売買実例がなく世情を反映した確実な指標とする合理的理由が見当たらない」、(3)は、「画一的で個別事情が反映されず、実勢価額が形成されないことが考えられる」としているのはいいとして、興味深いのは、(1)についても、「本件物件の取得費が一定率で計算され実額等がまったく反映されない」として退けていることです。確かに「実額等がまったく反映されない」のですが、もとは法律(租税特別措置法)に根拠があり、上級行政機関である国税庁からの通達(措通31の4-1)でも適用して差し支えないとされているわけですから、下級行政機関の主張としては意外な気もします。

それはともかく、審判所も、取得費の額が不明なものについては、「その費用を実額により算定することができないから、その部分については、推計の方法によって算定せざるをえない。」とし、次のように、税務当局が採用した方法を評価しています。

 

「本件新建物の取得費については、N調査会が公表している統計的な数値である建築物単価を基に建築価格を算定し、その価額から譲渡時までの減価償却費相当額を控除しているものであり、実勢価額の近似値と認められる時価相当額を推定していること、また、本件宅地の取得費については、本件物件の譲渡価額の総額から実勢価額の近似値と認められる当該建物の取得費を差し引いた額に、Mが調査し公表している六大都市を除く市街地価格指数(住宅地)の譲渡時に対する取得時の当該価格指数の割合を乗じて時価相当額を推定していることから、いずれも合理性があり、当審判所においても、これを不相当とする理由は認められない。」(N、Mというのは頭文字ではなく、固有名を登場順にアルファベットに置き換えて付けられたもので、N調査会=財団法人建設物価調査会、M=財団法人日本不動産研究所です(現在はいずれも一般財団法人)。また、「六大都市を除く市街地価格指数」とあるのは、本事例の物件が六大都市以外に所在するためです。)

 

取得費が不明である場合は推計によらざるを得ないが、その計算方法は合理性があるものでなければならないということですね。

この事例では、納税者側が主張した取得費3,260万円余に対し、審判所が認定した取得費は2,600万円余となりました。ちなみに概算取得費だと157.5万円です。

裁決は、あくまでも本事案における事実関係を基に導き出されたものですので、これを安易に一般化してはなりません。多くのサイトでも、上記のような計算方法が常に認められるわけではないので、詳しい税理士にご相談を、といったまとめ方をしています。また、日本不動産研究所のウェブサイトの「よくあるご質問」には次のようなQ&Aが載っています(https://www.kfs.go.jp/service/JP/60/19/index.html)。

 

Q. 税務申告(譲渡所得申告のための取得費算定)に市街地価格指数を使うことはできますか?

A. 譲渡所得申告のための取得費の算定に関する事項は、税務署の判断事項です。
私どもは「取得費の算定を行う場合、◯◯の指数を使うとよい。」というようなことを申し上げる立場にはございません。管轄の税務署にお問い合わせください。

 

さて、本題からは外れますが、この事例の納税者は所有権移転の仮登記日に手付金として800万円を、本登記日に残金の2,200万円を出金している(つまり購入費用が3,000万円であった)として預金の元帳の写しを提出しているものの、支払先の記載がないとして認められていません。納税者にとって厳しい判断にも思えますが、実は、取得費の算定の話とは直接関係ないので触れてこなかった部分に、ある事実がありました。

納税者は問題となった不動産(約700㎡)を購入した際、併せて約1,100㎡の農地を取得していました。納税者は、進入路がない袋小路であること、納税者には利用できないこと、所有権移転の本登記ができないこと(農地転用のことを言っているのでしょうか)を理由に、この農地には全く価値がなく、3,000万円はすべて問題の不動産の代金だったと主張しています。しかし税務当局の調査によれば、この農地は(問題の不動産の本登記日と同日に)納税者に移転登記がなされており、また道路に隣接しているとのことで、客観的に十分利用価値があるとし、審判所もこの農地が無価値であるとは認められないとしています。購入代金として3,000万円が支払われたのは事実だとしても、それは問題の不動産だけの代金ではなかったのではないか、と疑わせる余地があったということのようです。

 

 

yaf21.retpc.jp

 

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取得費の解説もあります。