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事業用と居住用、事務所と住宅 ― 『不動産フォーラム21』編集余話 ―

事業用と居住用、事務所と住宅 ― 『不動産フォーラム21』編集余話 ―

前回取り上げた「既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例」(租税特別措置法第37条の5)の適用対象は、「特定民間再開発事業の施行地区内における中高層耐火建築物への買換え」(以下「中高層耐火建築物への買換え」)(同条第1項第1号)と「既成市街地等内における中高層耐火共同住宅への買換え」(以下「中高層耐火共同住宅への買換え」(同条第1項第2号)ですが、後者(第2号)が買換資産を「当該個人の事業の用若しくは居住の用に供したとき」に適用するとされているのに対し、前者(第1号)の適用は「当該個人の居住の用に供したとき」に限定されています。譲渡資産の従前の用途も、第2号には特に限定がないのに、第1号は「事業の用に供しているものを除く」とされています。「耐火共同住宅」の用途は事業用でもかまわないのに、「耐火建築物」の用途は居住用でなければならない(事業用からの買換えは不可)、というのは不思議な気もしますが、ここにも税制改正による変遷が見られるのでした。

 

昭和59年度税制改正で中高層耐火建築物への買換えが措置法第37条の5に組み入れられた際、法人による同様の買換えが同法第65条の7の「特定の資産の買換えの場合の課税の特例」の適用対象に追加されました。この特例と同様の個人の所得税に関する規定は「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」(第37条)です。中高層耐火建築物への買換えは、個人の場合は事業の用に供されていない土地等(居住の用に供されている土地等)について行われる場合でも特例の対象となることから、法人の場合とは異なり、第37条(事業用資産の買換え)ではなく、中高層耐火共同住宅への買換え(立体買換え)を規定していた第37条の5に追加することになったようです。
第37条の5は、昭和55年度の制定当時から、中高層耐火共同住宅を「当該個人の事業の用若しくは居住の用に供したとき」に適用するとしており、中高層耐火建築物への買換えが追加された際もこの部分は改正されませんでした。ですから、中高層耐火建築物もそれ以来約30年、「当該個人の事業の用若しくは居住の用」に供すれば適用を受けられました。

 

ところが、平成23年税制改正により、中高層耐火建築物への買換えについてのみ、買換資産の用途が居住用に限定されたのです。

 

平成23年度改正直前の時点では、特定の(事業用)資産の買換え特例には、買換えの組み合わせが法人の場合で19、個人の場合で18も規定されていました。それが、改正により、法人で12、個人で11の組み合わせが適用対象から除外されることとなります。法人の場合の方が1つ多いのは、上記の経緯からお分かりのように、昭和59年度改正で追加された中高層耐火建築物への買換えが含まれているからです。

 

さて、平成23年度改正により、中高層耐火建築物への買換えは、法人の場合の「特定の資産の買換えの特例」の適用対象から除外されることとなりました。では、この買換えと同様のものとして個人の場合について措置法第37条の5に追加された買換えはどうなるのか。本来同様の買換えなのですから、こちらも「適用対象から除外する」でよさそうですが、そうはなりませんでした。譲渡資産から「事業の用に供しているもの」を除くとともに、買換資産については「居住の用に供したとき」に適用することとされたのです。つまり、「事業用資産の買換え」を除外した結果、居住用限定になったということですね。

 

なお、中高層耐火共同住宅については、「地上階数三以上の中高層の耐火共同住宅(主として住宅の用に供される建築物で政令で定めるものに限る。)」とされており、政令では「当該建築物の床面積の二分の一以上に相当する部分が専ら居住の用(当該居住の用に供される部分に係る廊下、階段その他その共用に供されるべき部分を含む。)に供されるものであること。」(措置法施行令第25条の4第5項第2号)と定められています。一方、中高層耐火建築物の方は「地上階数四以上の中高層の耐火建築物」とされているだけで、政令に委ねられている要件もありません。平成23年度に居住用に限定されるまでは、自由な用途構成にできたわけです。

 

さて、「特定事業用資産の買換え」といえば、平成24年度に、日本語の言葉の観点から興味深い改正がありました。

 

まず、「平成24年税制改正大綱」に、次のような記述があります。

 

「特定の資産の買換えの場合等の課税の特例における長期所有の土地、建物等から国内にある土地、建物、機械装置等への買換えについて、次の買換資産の見直しを行った上、その適用期限を3年延長します(所得税についても同様とします。)。
イ 土地等の範囲を事務所等の一定の建築物等の敷地の用に供されているもののうちその面積が300平方メートル以上のものに限定します。
ロ (省略)」

所得税についても同様とします」とされているのは、個人所得税についての「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」についても同様の改正をするという趣旨です。


改正内容は、10年を超える期間所有していた土地等を国内にある別の土地等に買い換えた場合に適用されるということで、満たすべき要件が少なく使い勝手が良いとされていた、当時「9号買換え」(現在は3号買換え)と呼ばれていたものについて、買換資産である土地等の用途・面積を限定するというものでした。財務省の「平成24年税制改正の解説」には、「買換資産である土地等の用途に限定がなく、政策目的が曖昧であるという指摘があり、より付加価値の高い資産への買換えを促進し、経済の活性化を図るとの政策目的を明確化する観点からの見直しが行われました。」とあります。
「事務所等」ですから、大綱の公表時点では狭い範囲に限定されるのではないかと考えた人も多かったのではないでしょうか。

大綱での「事務所等の一定の建築物等」は、改正法において、「事務所、事業所その他の政令で定める施設(以下この号において「特定施設」という。)(以下省略)」とされました。では政令で定める「特定施設」とはどのようなものでしょうか。所得税の特例については措置法施行令第25条第10項(平成24年度改正時は第13項)にあります。

 

政令で定める施設は、事務所、工場、作業場、研究所、営業所、店舗、倉庫、住宅その他これらに類する施設(福利厚生施設に該当するものを除く。)とする。」

 

「事務所等」の「等」の中に「住宅」が隠れていました。一方、ホテルや旅館は含まれていません。もちろん、住宅といっても事業用ですから賃貸住宅などになるのでしょうが、ちょっと無理があるような気がしないでもありません。税法ではありませんが、借地借家法に規定されている事業用定期借地権では、事業用といえども居住用の建物は認められませんから。政令や省令に委ねられた規定には、よくよく注意しなければなりませんね。

 

なお、現行の3号買換えにおいて、買換資産は「土地等、建物、構築物」とされており、「土地等」については上記のように上物の用途が限定されていますが、「建物」や「構築物」については特に制限がありません。

 

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