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「特定の民間再開発事業」の話 その1 ― 『不動産フォーラム21』編集余話 ―

yowa/2307

 

毎年行われる税制改正は、12月下旬の閣議で決定される「税制改正の大綱」が基になっています。これに基づく改正法案が翌年1月に召集される通常国会に提出され、可決・成立を経て年度末に公布、多くの改正規定は4月1日から施行されることになります。税理士など、事情に通じた人であれば、大綱の段階の文章で「あの条文がこう変わるのかな」と見当がつくのでしょうが、慣れていないと、とまどうことも少なくありません。

 

ここでは「令和5年度税制改正の大綱」に書かれた次の改正内容を見てみることにします。
「優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例」について、「適用対象から特定の民間再開発事業の用に供するための土地等の譲渡を除外する。」とあり、「既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例」について、「買換資産である中高層の耐火建築物の建築に係る事業の範囲から、特定の民間再開発事業を除外する。」とあります。「特定の民間再開発事業」が特例の対象となる事業から外れることになります。

 

「優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例」は租税特別措置法第31条の2に規定されていて、対象となる譲渡は同条第2項に列挙されています。今回の改正直前には18ありました。しかし、大綱にある「特定の民間再開発事業」という言葉は、どこにも見当たりません。この譲渡が優良住宅地の造成等のための譲渡の適用対象に加えられたのは昭和63年のことですが、「昭和63年度税制改正の要綱」(昭和63年1月12日閣議決定)でも、「特定の民間再開発事業の用に供するために土地等を譲渡した場合」と表現されています。そして、昭和63年3月31日に公布された「租税特別措置法の一部を改正する法律」で第31条の2第2項に加えられたのが、次の第5号(当時)です。

 

「五 地上階数四以上の中高層の耐火建築物の建築をする政令で定める事業を行う者に対する第三十七条の五第一項の表の第一号の上欄のイ又はロに掲げる区域又は地区内にある土地等の譲渡で、当該譲渡に係る土地等が当該事業の用に供されるもの」

 

令和5年度の改正直前の時点では第12号となっていました(それまでの改正によって地区の規定などは変わっています)が、この条文の「地上階数四以上の中高層の耐火建築物の建築をする政令で定める事業」が「特定の民間再開発事業」ということになります。

 

ところで、この事業を「特定の民間再開発事業」とするためには都道府県知事の認定を受けなければならないのですが(「政令で定める事業」の要件の一つです)、認定事務に関する昭和63年12月の建設省(当時)の都道府県知事あての文書に「一定の中高層耐火建築物の建築をする事業(以下「特定の民間再開発事業」という。)」という表現が見られます。階数や立地のほか面積などの要件が「特定の」の中に含められているわけです。

 

一方、「既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例」(租税特別措置法第37条の5)については、買換資産の対象となる建築物を建設する事業から「特定の民間再開発事業」が除外されるというのですが、この特例には適用対象となる買換えのパターンが2つあります。そのうちの1つは等価交換事業で利用される「立体買換えの特例」で、一般に「既成市街地等内における中高層耐火共同住宅建設のための買換え」(第1項第2号)といわれています。大綱の表現(この特例を規定している第37条の5の見出しです)から、改正があるのはこちらか? と考えてしまいそうですが、そうではありません。

 

第37条の5第1項第2号の買換えの対象となる資産を条文で確認すると、「当該事業の施行により当該土地等の上に建築された耐火共同住宅(当該耐火共同住宅の敷地の用に供されている土地等を含む。)又は当該耐火共同住宅に係る構築物」となっており、「当該事業」とは、「地上階数三以上の中高層の耐火共同住宅(主として住宅の用に供される建築物で政令で定めるものに限る。以下この項において同じ。)の建築をする事業」です。建築物の要件は政令に委ねられているものの、事業自体に「特定の民間再開発事業」の要素はありません。

そこで、もう1つの買換えである「特定民間再開発事業の施行地区内における中高層耐火建築物への買換え」(第37条の5第1項第1号)の対象となる買換資産について、条文を確認してみます。

 

「当該特定民間再開発事業の施行により当該土地等の上に建築された中高層耐火建築物若しくは当該特定民間再開発事業の施行される地区内で行われる他の特定民間再開発事業その他の政令で定める事業の施行により当該地区内に建築された政令で定める中高層の耐火建築物又はこれらの建築物に係る構築物」(一部省略)

 

「特定民間再開発事業」という言葉はありますが、ここにも「特定の民間再開事業」とは書いてありません。除外される事業があるとしたら、「その他の政令で定める事業」に違いない、ということになります。そこで政令(措置法施行令第25条の4第4項)を見ると、次のように書かれています(改正前)。

 

「法第37条の5第1項の表の第1号の下欄に規定する政令で定める事業は、次の各号に掲げる事業(中略)とする。

一 法第37条の5第1項の表の第1号の上欄に規定する特定民間再開発事業

二 法第31条の2第2項第12号に規定する事業

三 都市再開発法による第一種市街地再開発事業又は第二種市街地再開発事業

 

2番目の「法第31条の2第2項第12号に規定する事業」が、「特定の民間再開発事業」ですね。

 

さて、令和5年度税制改正については、改正された法律はもちろん、政令(施行令)や省令(施行規則)、関係する告示も令和5年3月31日に公布されました。「特定の民間再開発事業」に関する部分を確認すると、租税特別措置法の改正に「第三十一条の二(中略)第二項第十二号を削り、」とあり、同法施行令の改正には「第二十五条の四第四項第二号を削り、」とあります。このようにして、特例の対象から除外されたわけです。

法律の案文や新旧対照表は、法案が国会に提出された後、財務省のウェブサイトで見ることができるのですが、政令や省令については、公布されるまで確認できません(事前に確認できる方法があれば知りたいところです)。通常、政省令などを定める際に行われるパブリックコメントも、税制改正に関しては除外規定が適用されるようです(行政手続法第39条第4項第2号)。そもそも法律も成立していないのに、その成立を前提とする政省令について意見を募ることはできないということかもしれません。

 

ところで、「既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例」の中に、「特定民間再開発事業」という言葉が出てきていました。こちらは「特定の民間再開発事業」とは違い条文に書かれています。「の」のあるなしで何が違うのか、一方は税制上の特例から除外されてしまいましたので、いまさらの感はあるかもしれませんが、次回はこれらの違いについて見てみようと思います。