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がもよんを歩く〈manabeコラム〉

がもよんを歩く

地下鉄(Osaka Metro)の蒲生四丁目駅で降り、地上にあがると、幹線道路の十字路に出る。
東京で言えば神保町あたりの雰囲気に似ている。高層の建築物が少ないが。
 
しかし、一歩、横道に入るとそこは路地といってもよい道で、せいぜい2階建ての古い住宅地である。この雰囲気は、大地主が一帯を所有していて、大規模開発が出来ていないエリア特有のものであり、案の定、この一帯は「杦田一族」が所有しているとのこと。
 
都市の計画上は、旧地主が持ちこたえられなくなり大規模な再開発が行われるほうが京橋の隣町というほぼ都心にあるこのエリアの発展に寄与するのであろうが、一般的には、地主側の論理は「一坪たりとも土地は減らさず次の代に継承する」であるので、この「がもよんにぎわいプロジェクト」が成り立っていると思われる。
不動産業、コンサルティング業の成功のカギは、大地主をつかまえられるかであるので、そういう視点でなぜ成功したのか、考えてみた。
 
まず、これだけの大地主であれば、当然、不動産業者は大勢近づいてくる。
 
建て替えましょう。新築しましょう。売却しましょう。買い増ししましょう。
 
これらのセールスは耳にタコで、それに付随して銀行、建築会社、税理士等々が様々な案を持ってくるのが、常態である。
 
がもよんの成功=和田欣也氏が杦田氏に入り込めた理由は、まず、不動産業者でないから、不動産の動き(売る、買う、貸す、借りる、建てる)による提案ではなく、古家の再活用といった不動産業者ならかったるくて出来ない角度から提案できたことが、一番であろう。
 
これは和田氏が、耐震金物販売から耐震建物設計という業種であったことが大きい。
 
地主からすると、売ったり、建てたりというリスクがあまりなく、かつ、現状を改善できるというメリットに加え、がつがつとした商売気質(宅建業者は不動産を動かさなければ手数料にならない)がなく信頼できたのでは、と想像できる。この辺のアプローチの仕方は、コンサルティング業を行ううえで、大いに参考になると思われる。
 
*売りましょう、建てましょう=そうしないと業者として手数料にならない。
一坪たりとも減らしたくない、という地主の思いに寄り添っていない。
 
また、30年の長きにわたる景気低迷期を経て、一族の資産状況も疲弊していたとのことで、これも、リスクの少ない事業へかじを切る大きな要因であろう。
 
次に、やはり、和田氏のコミュニケーション力と企画力、といった人的要素が大きいと思われる。そのなかでも、きちんとした形にとらわれない発想力は不動産コンサルティング業に携わる者には大いに参考になると思われる。
 
例えば、各店舗は、「数時間過ごすだけの場所ならいいと思える内外装」であり「自分の持ち物としてずっと暮らすなら不満が出るだろう仕様」である。
コストを考えると、実に正解な仕様である。

昨年度、不動産エバリュエーション事例コンテストで大賞を受賞した名古屋の「名駅二丁目三番街 再生の物語」プロジェクトも、リニア開通までの空地帯となった一角で、数年という短期間で回収するという命題のもと、4~5業態をミックスさせ常にどこかに人が入るという手法が際立っていたが、やはり「借りる側に立った」企画が成功のもとであろう。
 
単価の安いカフェは出店を断るというのも、不動産業なら、「うまくいかないだろうなあ」と思っても、手数料を目の前にして、断れるだろうか。
昼食に入った蕎麦屋は、確かにおいしくて愛想もよく、内装も雰囲気を味わえるぎりぎりのところで、かつ値段はけっこう高い。安くはない。しかも、メニューや雰囲気は、お酒を飲んでもらうところに徹している。

大げさに言うと、ローコスト・ハイリターン狙いである。
また、週に一回、店主会議を開いて、よもやまに良いアイデアがあったら採用し、各店舗の連携も強めていく、というコミュニケーション手法も、不動産業者にとっては苦手な分野ではないだろうか。これは、いろいろと形を変えて使えると思う。
 
最後に、がもよんの将来像はどうなるのだろうかと考えてみた。そのとき、ふと思い出したのが隅研吾氏が何かの本で書いていた「日本の都市の大規模再開発は面白くない。昔ながらのごちゃごちゃした家並みや商店街が、少しずつ変化、改善していくほうが楽しい」という言葉であった。
 
たぶん、経済効率性からすると、ほかのやり方が勝っているかもしれないが、商売している人も、住んでいる人も、遊びに来る人も、土地を貸している人も、みんな面白いと思うことを続けていくうちに徐々に変化し続ける、というのが正解なのかもしれない。
 

 

執筆者

真鍋茂彦 不動産流通推進センター 教育事業部長
公認 不動産コンサルティングマスター