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取得費の話 その1 ― 『不動産フォーラム21』編集余話 ―

取得費の話 ― 『不動産フォーラム21』編集余話 ―

不動産の税制について調べていると、「えっ、こういうことだったの?」といった規定に出くわすことがあります。すぐに思いついたこととして「取得費」を取り上げてみます。そんなの知ってるよ、という方も多いとは思いますが、再確認の機会として、しばしお付き合いください。

譲渡所得税は、譲渡収入から取得費や譲渡費用を控除したものを譲渡所得として計算することになっています。その取得費とは、所得税法によれば「その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額」(所得税法38条)とされています。
一方、租税特別措置法(以下。措置法)には「長期譲渡所得の概算取得費控除」という規定があります。

「個人が昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地等又は建物等を譲渡した場合における長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費は、所得税法第38条及び第61条の規定にかかわらず、当該収入金額の100分の5に相当する金額とする。」(措置法31条の4第1項本文)

所得税法38条は上記の譲渡所得の計算上の取得費の規定で、61条というのは昭和27年12月31日以前に取得した資産の取得費の計算の仕方などに関する規定です。措置法31条の4は、これらの規定にかかわらず、土地建物の長期譲渡所得の金額を計算する際は「収入金額の100分の5に相当する金額とする」といっていますので、実際の所得費がわかっていても、そうしなければならないようです。設備費も改良費も関係ないということになりますね。もっとも、この規定だけだと、ずいぶん昔から所有している不動産の話では? と考えてしまうかもしれません。しかし、ご存じのようにそうでもありません。国税庁所得税関係の措置法通達に次のような記述があります。www.nta.go.jp

「措置法第31条の4第1項の規定は、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地建物等の譲渡所得の金額の計算につき適用されるのであるが、昭和28年1月1日以後に取得した土地建物等の取得費についても、同項の規定に準じて計算して差し支えないものとする。」(措通31の4-1)

通達というのは一般に上級行政機関から下級行政機関に対して発出されるもので、この通達も法令の取扱いを統一するために各国税局長あてに出されているわけですが、申告に際しては納税者もこれを参考にすることが多いと思います。

ところで、措置法31条の4では「長期譲渡所得の金額の計算上」といっています。では短期譲渡ではどうなるのか、気になるところです。国税庁ウェブサイトには納税者からの照会に対する回答が質疑応答事例として掲載されていて、ここに次のような事例があります。

中高層耐火建築物等の建設のための買換えの特例(措置法37条の5。いわゆる立体買換えの特例)の適用を受けて取得した買換資産を3年後に譲渡した場合の取得費についての照会です(https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/05/07.htm)。買換資産の譲渡価額が5,000万円だったのに対し、旧譲渡資産はかなり以前に取得したものとみえて、40万円だったとのことです。旧譲渡資産の取得価額は引き継がれますが、取得時期は買換えの時点なので短期譲渡となります。その取得費を、長期譲渡所得の計算の場合と同じように譲渡価格の5%として計算してよいかと質問したわけです。

これに対し国税庁は、

「現行法上、概算取得費控除の特例は、「長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費」に関する規定ですが、短期譲渡所得の金額の計算についても適用して差し支えありません。」

と回答しています。この事例では、実際の取得価額の6倍強の250万円を取得費とすることができたのです。

ここまでの話を簡単にまとめると、こんな感じでしょうか。
「取得費とは取得に要した費用と設備費・改良費の合計額だが、長期譲渡であれ短期譲渡であれ、譲渡収入の5%相当額としてよい。」

措置法や通達には、「取得に要した費用の額が不明の場合は」といった限定は見られませんので、上記の質疑応答事例のように、取得に要した金額がわかっている場合でも、より多く控除できるのであれば、概算取得費控除を適用したほうが得になる、というわけです。

とはいえ、そのような例は多くはないのではないでしょうか。何しろ売却で得られた収入の95%が課税対象となるのですから。

実は、上記の措置法31条の4第1項には続き(ただし書)があります。

「ただし、当該金額がそれぞれ次の各号に掲げる金額に満たないことが証明された場合には、当該各号に掲げる金額とする。
一 その土地等の取得に要した金額と改良費の額との合計額
二 その建物等の取得に要した金額と設備費及び改良費の額との合計額につき所得税法第38条第2項の規定を適用した場合に同項の規定により取得費とされる金額」

譲渡収入金額の5%が土地や建物の取得費よりも少ないことを証明できれば、それぞれその金額とするとしているわけです。もちろん、購入金額がわかる売買契約書などがあれば簡単に証明できますが、そうしたものが存在しない場合、どうすればよいのでしょうか。

調べてみると、税理士などのサイトの多くに「市街地価格指数」というキーワードが見られます。

次回は、これについて調べてみることにしましょう。

 

 

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