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「不動産業のDX化」の現在地

「不動産業のDX化」の現在地

 

はじめまして、宅建マイスター・フェローの森下と申します。
15年前、私が不動産業界の門を叩いた頃にはすでに「不動産業はIT化が遅れている」と言われていました。時代が変わりインターネットが大きく普及すると、物件情報は紙からREINS等WEBデータベースへ、書類のやり取りもFAXからメールへ移ってきました。
しかし、今度は「IT化」が「DX化」と名前を変え、結局「不動産業のDX化が急務である(=遅れている)」と言われるようになり、いつの間にか振り出しに戻ったような気がします。

 

私自身はいわゆる「デジタルネイティブ世代(1990~2000年代生まれ)」のちょっと上の世代ですが、「IT重説」社会実験にも最初から参加するなど、なるべく早期に新しいものを取り入れようとしてきました。
現在は、会社の代表電話も物件確認ダイヤルも自動応答ですし、借主様からの解約通知書はHPから電子サインで出してもらい、オーナー様との管理委託契約書や売却時の媒介契約書も電子サインで締結、定期借家契約の再契約はすべてIT重説、管理物件の入居申込~審査もいまや半数以上はWEB申込です。

 

そうした経験から振り返ると、「IT化」も「DX化」も、それがもたらしてくれるのは「業務時間の圧縮・効率化」であることに気付きます。
自動応答で無駄な電話対応がなくなり、電子サインで郵送・返送の時間待ちがなくなり(契約書によっては印紙代もなくなり)、IT重説で移動時間がなくなります。
空いた時間を、より高度かつ重要な業務である物件調査やコンサルティングに充てられるのが、最大の導入メリットです。

 

と、ここまでは教科書的・IT業者の営業トーク的な内容ですが、そんな私がDX化で空いた時間で何をしているかというと「子育て」です。
賃貸管理業をしながら子育てをする、というのは従来であれば相当にハードルが高いことでしたが、上記のようにIT・DX化を総動員することで業務時間を極限まで圧縮し、何とかやりくりをしています。

 

どんなに業務が煮詰まっていても、原稿の締切りが迫っていても、保育園のお迎え時間はやってきてしまいます。残った仕事を自宅に持ち帰って夜中2~3時までかけて片付けても、乳児はミルクを求めて泣きますし、幼児は早起きします。
身近なモデルケースもなかなかなく、ハッキリ言って孤独ですしキツいです。大変なものは大変です。

 

しかし、今この時代に、私がこれをやり遂げれば、賃貸管理業や不動産業の若い世代が子育てをするタイミングになったとき、仕事と子育ての両立について何かのヒントを残せるんじゃないか。若い人たちにとって「先人がいる」「身近なモデルケースがある」というのは心強いことなんじゃないか。
そう信じながら子育てにも業務にも邁進し、そのためにIT・DXツールの導入もまだまだ継続しています。直近では、駐車場契約を全てWEBで完結できるように準備中です。

 

IT・DXツール導入について、不動産業界で決まって言われるのは「心がこもらない」「気持ちが伝わらない」という懸念です。しかし、ツールとはあくまでも「道具」ですから、それを使って何をするか、どうやって時間を圧縮するか、空いた時間で誰にどうやって心を込めるか・・・を考えてみるのも、一興でしょう。


いまや二大業界団体(ハト&ウサギ)も、かなり本気のDXツールを各会員向けに無料提供しています。食わず嫌いの方も、「心を込め」て一度使ってみてはいかがでしょうか。

 

執筆者

森下 智樹氏

永幸不動産株式会社 代表取締役宅建マイスター・フェロー

昭和57年生まれ。東京都豊島区出身。1児の父。
立教大学大学院修了後、不動産売買仲介・賃貸仲介・賃貸管理の各専門事業者に従事し、平成24年現職に入社、平成26年より代表取締役に就任。賃貸管理業をメインに、駐車場の草むしりから一棟マンションの売買仲介までを手がける。
推進センターにて登録実務講習 演習指導講師、不動産流通実務検定“スコア”問題作成委員、『不動産流通実務必読テキスト』執筆などを担当。

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