「特定民間再開発事業」に係る買換えが「既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例」(租税特別措置法第37条の5)の対象となったのは昭和59年度からです。この条文の見出し自体、このときに「中高層耐火共同住宅の建設のための」から「中高層耐火建築物等の建設のための」に改正されています。この改正の前は、現在の措置法第37条の5第1項の表の第2号の中高層耐火共同住宅への買換えのみが、この特例の対象でした。「昭和59年度税制改正の要綱」(昭和59年1月27日閣議決定)には、次のように書かれています。
「三大都市圏の既成市街地等(これに準ずる一定の地区を含む。)内において、民間の優良な再開発事業として地上階数4以上の建築物が建築される場合には、一定の要件の下で、その再開発事業の施行地区内の土地・建物と再開発事業により建築される建築物等との買換え・交換について、取得価額の引継ぎによる課税の繰延べを認める。」
そして、措置法第37条の5第1項に表の第1号として設けられたのが次の条文です(一部省略)。
譲渡資産:
「次に掲げる区域又は地区内にある土地若しくは土地の上に存する権利、建物又は構築物で、当該土地等又は当該建物若しくは構築物の敷地の用に供されている土地等の上に地上階数四以上の中高層の耐火建築物の建築をする政令で定める事業(以下この項において「特定民間再開発事業」という。)の用に供するために譲渡をされるもの(当該特定民間再開発事業の施行される土地の区域内にあるものに限る。)」
買換資産:
「当該特定民間再開発事業の施行により当該土地等の上に建築された中高層耐火建築物(当該中高層耐火建築物の敷地の用に供されている土地等を含む。)又は当該中高層耐火建築物に係る構築物」
譲渡資産については現行の条文と同じですが、買換資産は今では次のように規定されています(一部省略)。
「当該特定民間再開発事業の施行により当該土地等の上に建築された中高層耐火建築物若しくは当該特定民間再開発事業の施行される地区内で行われる他の特定民間再開発事業その他の政令で定める事業の施行により当該地区内に建築された政令で定める中高層の耐火建築物(これらの建築物の敷地の用に供されている土地等を含む。)又はこれらの建築物に係る構築物」
昭和59年度に買換え特例の対象に加えられたときは、買換資産は譲渡した土地の上に建てられるものに限定されていたのですが、今では同じ地区内の別の事業で建てられたものでもよいことになっています。この改正が行われたのは平成3年度で、このとき、前回取り上げた「特定の民間再開発事業」(措置法第31条の2第2項旧第12号:昭和63年度税制改正で「優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例」の対象となった事業)が「政令で定める事業」の一つとして位置付けられたのでした。
では、「特定の民間再開発事業」と「特定民間再開発事業」とはどう違うのか、見ていきましょう。
措置法の条文ではどちらも「地上階数四以上の中高層耐火建築物の建築をする政令で定める事業」なので、違いがわかりません。
そこで、それぞれの「政令で定める事業」を確認してみます。措置法施行令第20条の2旧第14項(特定の民間再開発事業)と同第25条の4第2項(特定民間再開発事業)に規定されています。
対象となる区域・地区や施行面積、また、都市施設(都市計画施設又は地区施設)の用に供される土地又は公開空地の確保が求められていることなどはほぼ同じですが、明らかに異なるのが次の要件です。
特定の民間再開事業:その事業の施行地区内の土地の高度利用に寄与するものとして財務省令で定める要件(措置法施行令第20条の2旧第14項第3号)
特定民間再開発事業:その事業の施行地区内の土地の利用の共同化に寄与するものとして財務省令で定める要件(措置法施行令第25条の4第2項旧第3号)
「土地の高度利用に寄与するもの」と「土地の共同化に寄与するもの」の違いです。
ということで、それぞれ財務省令(措置法施行規則)を確認してみます(一部省略)。
特定の民間再開発事業:
「施行令第二十条の二第十四項第三号に規定する施行地区内の土地の高度利用に寄与するものとして財務省令で定める要件は、同項に規定する中高層の耐火建築物の建築をすることを目的とする事業の同項第一号に規定する施行地区内の土地につき所有権を有する者又は当該施行地区内の土地につき借地権を有する者の数が二以上であることとする。」(措置法施行規則第13条の3旧第7項)特定民間再開発事業:
「施行令第二十五条の四第二項第三号に規定する施行地区内の土地の利用の共同化に寄与するものとして財務省令で定める要件は、同項に規定する中高層の耐火建築物の建築をすることを目的とする事業の同項第一号に規定する施行地区内の土地につき所有権を有する者又は当該施行地区内の土地につき借地権を有する者の数が二以上であり、かつ、当該中高層の耐火建築物の建築の後における当該施行地区内の土地に係る所有権又は借地権がこれらの者又はこれらの者及び当該中高層の耐火建築物を所有することとなる者の二以上の者により共有されるものであることとする。」(措置法施行規則第18条の6第1項(令和5年度改正前の条文))
要するに、「特定の民間再開発事業」は、事業が行われる土地の権利者が2人以上であればよい(施行後の権利者の数は問われない=1人でもよい)のですが、「特定民間再開発事業」は、事業が行われる土地の権利者が2人以上で、中高層建築物が建った後の土地の権利者も2人以上でなければならない、ということになります。
財務省主税局税制第一課の職員による令和5年度税制改正の解説では、「優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例」の適用対象から「特定の民間再開発事業」を除外することについて、次のように書かれています。
「昭和63年度改正において、異常な地価高騰等の下で、土地の供給の促進を図ることが極めて重要な課題であったことを踏まえて設けられたものですが、近年の同事業の適用実績がない状況を踏まえ、適用期限の到来をもって本措置が廃止されました。」
ところで、「特定民間再開発事業」「特定の民間再開発事業」のいずれも、特例によって民間による再開発事業を促進しようとする税法上の規定に基づくものであって、「都市再開発法」などに定めのある事業制度ではありません。「適用対象から除外する」という表現は、「特定の民間再開発事業」のために譲渡しても、あるいは「特定の民間再開発事業」で建てられた建物に買い換えても、特例の適用が受けられなくなる、と読めそうですが、実際は、「特定の民間再開発事業」といわれていたもの自体がなくなったということです。