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建築工事請負契約の実務-追加・変更工事を巡るトラブル[2]

建築工事請負契約の実務-追加・変更工事を巡るトラブル[2]

※2022年10月11日に公開した記事を再掲しました。

3 設計図面や見積書に記載のない工事

ところで、問題となっている工事について設計図面や見積書に含まれていなければ常に本工事に含まれないことになるかというと、必ずしもそうではありません。

設計図面や見積書には記載されておらず、一見して本工事には含まれないように見える工事であっても、一般的に考えて本工事に含めることが当然に想定される工事については、本工事に含まれるとされることがあります。

例えば、クロスとフローリングのやり替えを行うリフォーム工事において、巾木の交換は当該リフォーム工事に必然的に伴う作業ですので、仮に見積書には記載がなくても当然に本工事に含まれると解することもできます*1

また、設計図面には記載されているのに、見積り時(図面に基づく積算時)にそれを見落としたというケースでは、いわゆる見積り落とし(見積り落ち)として本工事に含まれるとされることがあります。

 

4 手直し工事

有償の追加・変更工事であるか否かが争いになる場面として、施工業者による手直し工事ではないかが争われるケースもよく見受けられます。

すなわち、施工業者が本工事に含まれない追加・変更工事であるとして工事代金を請求したところ、施主の方から、当該工事は施工業者のミスで必要になったものであるから、追加で代金を支払う必要はないというものです。

特に施主において工事の出来上がりに満足できずやり直しをさせたような場合に、それが施工業者のミスなのか、それとも施主のこだわりの問題なのか、という問題が起き得るのです。

 

5 サービス工事

問題となっている工事について本工事に含まれない追加・変更工事であることに争いはないものの、当該工事は施工業者が無償で対応することになっていた(いわゆるサービス工事)として、追加費用の支払につき争いになるケースも多くあります。

例えば、軽微な追加・変更工事について元の営業担当者はサービスで行うとしていたところ、それについて双方で明確な確認をしないまま担当者が変わってしまい、改めて追加費用を請求されるような場合や、特定の工事について元々良好な関係にあったときはサービス工事とすることが暗黙の了解になっていたにもかかわらず、事後に施工瑕疵等を巡ってトラブルに発展したような場合に、施工業者が一転して追加費用を請求してくるような場合があります。

この点、営利事業者である施工業者が、設計図面や見積書に記載のない工事を自らの費用で自主的に行うことは、経済合理性の観点からは考え難いという一般経験則から、相応の規模や手間のかかる追加・変更工事が行われている場合には、たとえ事前に費用に関する明確なやり取りがなくとも、当事者としても有償であると認識していたはずだとして追加費用の支払義務が認められることがあります。

もっとも、建築実務上は、特に軽微な工事等については施工業者側の裁量的判断で特に追加費用を求めずに行ってしまうケースもまま見受けられ、また、施工業者が他の工事の不備や工事遅延を穴埋めするため、グレードアップ的要素を含む追加・変更工事を無償で行うケースもあります。

そのため、一般経験則といっても常に通用するとは限らず、実際に追加費用の支払義務が生じるか否かは、そうした個別事情も踏まえて判断されることになります。

 

 

yaf21.retpc.jp

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執筆者

奥原 靖裕氏
シティユーワ法律事務所 弁護士(パートナー)

一橋大学法学部卒業、一橋大学法科大学院(ビジネスロー・コース)修了。2009年に弁護士登録。企業を当事者とする紛争解決一般を取り扱っており、大規模訴訟を含む代理人をこれまでに多数務めている。不動産・建築案件を主たる取り扱い分野の一つとし、宅地建物取引士向けの講習テキストの監修・執筆や、不動産流通推進センターが実施する「不動産流通実務検定(スコア)」の問題作成委員、住宅紛争審査会紛争処理委員などを務める。他にはシステム開発を巡る法務支援、紛争対応にも力を入れている。

これまで携わった紛争解決に関する知識と経験を踏まえた日常的なリーガルサポートを得意とし、行政対応、不正対応についても多くの経験を有する。

 

*1:小久保孝雄=徳岡由美子編著『リーガル・プログレッシブ・シリーズ14 建築訴訟』250頁〔溝口優〕(青林書院、2015年)