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古い慣習からの脱却なるか 賃貸管理業法の波紋広がる

古い慣習からの脱却なるか 賃貸管理業法の波紋広がる

 

「賃貸住宅の管理業務の適正化に関する法律」(管理業法)が21年6月に完全施行されてから2年余が経過した。当初、不動産業界の管理業法に対する反応は穏やかなものだった。2本立ての一つ、サブリースを悪用する不良業者に対する規制は当然だし、もう一方の管理業者に対する登録制度についても、より質の高い管理を行う業者がオーナーや入居者から高い信頼を得られようになるという当然の効果を期待するものだったからである。

しかし、ここに来て管理業法の波紋はそこにとどまらず、賃貸業界の古い慣習全体に風穴をあける方向に向かい始めた感がある。そう予感させたのは、日本賃貸住宅管理協会(日管協)が8月4日に正式に発足させた「賃貸管理リーシング推進事業者協議会」(以下、協議会)の設立趣意である。

そこにはこう記されている。

「当協議会は(中略)賃貸住宅管理事業者と賃貸住宅仲介事業者の役割と責任を見直すことに加え、新たな業務報酬を模索する〝リーシング管理〟のガイドラインの研究や、管理事業者・仲介事業者が相互理解を深める研究会を中心に活動していく」

要するに、管理業務に対する新たな管理報酬を模索するということである。現在、管理報酬は「家賃の5%」が慣習化しているが、特段の根拠があるわけではない。受託競争が激化する中、管理業務の高度化・多様化が進んでいるものの、管理報酬が従来からの古い慣習に張り付いたままでは、管理業そのものの発展を阻害しかねないという危機感が背景にあると思われる。

そこで、料率はともかく現行の家賃連動制がいいのか、それとも定額制にすべきか。それも毎月払いか、年一括払いとすべきか。更には、その年の家賃収益に応じて払われる〝ボーナス制度〟を導入すべきかなど幅広い検討が行われる予定だ。特に、ボーナス制度はその年の家賃収益が一定の成果を上げたときに支払われるもので、オーナーの理解も得やすいうえに、管理会社のモチベーションアップにもつながるため、十分検討に値するという。つまり、管理業法が施行されたことで管理報酬の自由化・多様化が加速する可能性が出てきた。

そして、こうした管理報酬に対する新しい考え方は隣接する賃貸仲介業務の手数料や、更には売買仲介の手数料のあり方にも波及する可能性がある。賃貸仲介も売買仲介も現行の手数料は、大臣告示の上限規定通りという慣習がある。しかし、これからの仲介業務は管理同様にその役割と責任が鋭く問われる時代になる。当然、その報酬についても提供される業務の質に応じたものにすべきという考え方が強まってくるはずだ。そうであってこそ市場メカニズムが働き、業界の健全な発展につながっていく。

というより、管理報酬が多様化・自由化していく中で、仲介手数料だけが現行のままなら、仲介業そのものの衰退につながりかねないという懸念すら抱かざるを得ないだろう。

 

執筆者

本多信博氏 住宅新報 顧問

1949年生まれ。長崎県平戸市出身。早稲田大学商学部卒業。住宅新報編集長、同編集主幹を経て2008年より論説主幹。 2014年より特別編集委員、2018年より顧問。
著書:『大変革・不動産業』(住宅新報社・共著)、『一途に生きる!』(住宅新報社)、『百歳住宅』(プラチナ出版)、『住まい悠久』(同)、『たかが住まい されど、住まい』(同)、『住文化創造』(同)など
現在、住宅新報に連載コラム「彼方の空」を執筆中。

「特定の民間再開発事業」の話 その2 ― 『不動産フォーラム21』編集余話 ―

「特定の民間再開発事業」の話 その2 ― 『不動産フォーラム21』編集余話 ―

 

「特定民間再開発事業」に係る買換えが「既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例」(租税特別措置法第37条の5)の対象となったのは昭和59年度からです。この条文の見出し自体、このときに「中高層耐火共同住宅の建設のための」から「中高層耐火建築物等の建設のための」に改正されています。この改正の前は、現在の措置法第37条の5第1項の表の第2号の中高層耐火共同住宅への買換えのみが、この特例の対象でした。「昭和59年度税制改正の要綱」(昭和59年1月27日閣議決定)には、次のように書かれています。

 

三大都市圏の既成市街地等(これに準ずる一定の地区を含む。)内において、民間の優良な再開発事業として地上階数4以上の建築物が建築される場合には、一定の要件の下で、その再開発事業の施行地区内の土地・建物と再開発事業により建築される建築物等との買換え・交換について、取得価額の引継ぎによる課税の繰延べを認める。」

 

そして、措置法第37条の5第1項に表の第1号として設けられたのが次の条文です(一部省略)。

 

譲渡資産:
「次に掲げる区域又は地区内にある土地若しくは土地の上に存する権利、建物又は構築物で、当該土地等又は当該建物若しくは構築物の敷地の用に供されている土地等の上に地上階数四以上の中高層の耐火建築物の建築をする政令で定める事業(以下この項において「特定民間再開発事業」という。)の用に供するために譲渡をされるもの(当該特定民間再開発事業の施行される土地の区域内にあるものに限る。)」


買換資産:
「当該特定民間再開発事業の施行により当該土地等の上に建築された中高層耐火建築物(当該中高層耐火建築物の敷地の用に供されている土地等を含む。)又は当該中高層耐火建築物に係る構築物」

 

譲渡資産については現行の条文と同じですが、買換資産は今では次のように規定されています(一部省略)。

「当該特定民間再開発事業の施行により当該土地等の上に建築された中高層耐火建築物若しくは当該特定民間再開発事業の施行される地区内で行われる他の特定民間再開発事業その他の政令で定める事業の施行により当該地区内に建築された政令で定める中高層の耐火建築物(これらの建築物の敷地の用に供されている土地等を含む。)又はこれらの建築物に係る構築物」

昭和59年度に買換え特例の対象に加えられたときは、買換資産は譲渡した土地の上に建てられるものに限定されていたのですが、今では同じ地区内の別の事業で建てられたものでもよいことになっています。この改正が行われたのは平成3年度で、このとき、前回取り上げた「特定の民間再開発事業」(措置法第31条の2第2項旧第12号:昭和63年度税制改正で「優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例」の対象となった事業)が「政令で定める事業」の一つとして位置付けられたのでした。

 

では、「特定の民間再開発事業」と「特定民間再開発事業」とはどう違うのか、見ていきましょう。

措置法の条文ではどちらも「地上階数四以上の中高層耐火建築物の建築をする政令で定める事業」なので、違いがわかりません。

そこで、それぞれの「政令で定める事業」を確認してみます。措置法施行令第20条の2旧第14項(特定の民間再開発事業)と同第25条の4第2項(特定民間再開発事業)に規定されています。

対象となる区域・地区や施行面積、また、都市施設(都市計画施設又は地区施設)の用に供される土地又は公開空地の確保が求められていることなどはほぼ同じですが、明らかに異なるのが次の要件です。

 

特定の民間再開事業:その事業の施行地区内の土地の高度利用に寄与するものとして財務省令で定める要件(措置法施行令第20条の2旧第14項第3号)
特定民間再開発事業:その事業の施行地区内の土地の利用の共同化に寄与するものとして財務省令で定める要件(措置法施行令第25条の4第2項旧第3号)

 

「土地の高度利用に寄与するもの」と「土地の共同化に寄与するもの」の違いです。
ということで、それぞれ財務省令(措置法施行規則)を確認してみます(一部省略)。

 

特定の民間再開発事業:
「施行令第二十条の二第十四項第三号に規定する施行地区内の土地の高度利用に寄与するものとして財務省令で定める要件は、同項に規定する中高層の耐火建築物の建築をすることを目的とする事業の同項第一号に規定する施行地区内の土地につき所有権を有する者又は当該施行地区内の土地につき借地権を有する者の数が二以上であることとする。」(措置法施行規則第13条の3旧第7項)

特定民間再開発事業:
「施行令第二十五条の四第二項第三号に規定する施行地区内の土地の利用の共同化に寄与するものとして財務省令で定める要件は、同項に規定する中高層の耐火建築物の建築をすることを目的とする事業の同項第一号に規定する施行地区内の土地につき所有権を有する者又は当該施行地区内の土地につき借地権を有する者の数が二以上であり、かつ、当該中高層の耐火建築物の建築の後における当該施行地区内の土地に係る所有権又は借地権がこれらの者又はこれらの者及び当該中高層の耐火建築物を所有することとなる者の二以上の者により共有されるものであることとする。」(措置法施行規則第18条の6第1項(令和5年度改正前の条文))

 

要するに、「特定の民間再開発事業」は、事業が行われる土地の権利者が2人以上であればよい(施行後の権利者の数は問われない=1人でもよい)のですが、「特定民間再開発事業」は、事業が行われる土地の権利者が2人以上で、中高層建築物が建った後の土地の権利者も2人以上でなければならない、ということになります。

 

財務省主税局税制第一課の職員による令和5年度税制改正の解説では、「優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例」の適用対象から「特定の民間再開発事業」を除外することについて、次のように書かれています。

 

「昭和63年度改正において、異常な地価高騰等の下で、土地の供給の促進を図ることが極めて重要な課題であったことを踏まえて設けられたものですが、近年の同事業の適用実績がない状況を踏まえ、適用期限の到来をもって本措置が廃止されました。」

 

ところで、「特定民間再開発事業」「特定の民間再開発事業」のいずれも、特例によって民間による再開発事業を促進しようとする税法上の規定に基づくものであって、「都市再開発法」などに定めのある事業制度ではありません。「適用対象から除外する」という表現は、「特定の民間再開発事業」のために譲渡しても、あるいは「特定の民間再開発事業」で建てられた建物に買い換えても、特例の適用が受けられなくなる、と読めそうですが、実際は、「特定の民間再開発事業」といわれていたもの自体がなくなったということです。

建築散歩!No.13「大阪北浜 三井住友銀行大阪中央支店」~マスターと共に歩む、街歩きを兼ねた建築物の探訪~

建築散歩!No.13「大阪北浜 三井住友銀行大阪中央支店」

今回からは、工部大学校1期生の「曾禰達蔵(そねたつぞう)」設計の建築を見ていきましょう。大阪の「北浜」駅が最寄りの「三井住友銀行大阪中央支店」です。

銀行建築らしい建物ではないでしょうか。民間銀行の建物であり、昭和に入っている時期の建物ですので、正統な様式建築(古典主義)の建物としては、大阪でも最後の方の建物ではないでしょうか。

古典主義の柱の上部を柱頭(キャピタル)といいますが、このグルグル巻きのデザインは、「イオニア式」と呼ばれるものです。柱頭(キャピタル)は、このほかに装飾の無い極めてシンプルな「ドリス式」と、植物の葉をわさわさとあしらった「コリント式」が主なものだそうです。

堺筋の反対側を北へ少し行くと、「新井ビル」(大正時代の建物/設計:河合浩蔵/工部大学校4期生)があります。1階正面の柱の柱頭(キャピタル)をみると、こちらは「ドリス式」のようです。現地訪問の際は併せてどうぞ。

建築散歩!No.13「大阪北浜 三井住友銀行大阪中央支店」
建築散歩!No.13「大阪北浜 三井住友銀行大阪中央支店」
三井住友銀行大阪中央支店
建築散歩!No.13「大阪北浜 三井住友銀行大阪中央支店」
建築散歩!No.13「大阪北浜 三井住友銀行大阪中央支店」
新井ビル

 

 

 

「特定の民間再開発事業」の話 その1 ― 『不動産フォーラム21』編集余話 ―

yowa/2307

 

毎年行われる税制改正は、12月下旬の閣議で決定される「税制改正の大綱」が基になっています。これに基づく改正法案が翌年1月に召集される通常国会に提出され、可決・成立を経て年度末に公布、多くの改正規定は4月1日から施行されることになります。税理士など、事情に通じた人であれば、大綱の段階の文章で「あの条文がこう変わるのかな」と見当がつくのでしょうが、慣れていないと、とまどうことも少なくありません。

 

ここでは「令和5年度税制改正の大綱」に書かれた次の改正内容を見てみることにします。
「優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例」について、「適用対象から特定の民間再開発事業の用に供するための土地等の譲渡を除外する。」とあり、「既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例」について、「買換資産である中高層の耐火建築物の建築に係る事業の範囲から、特定の民間再開発事業を除外する。」とあります。「特定の民間再開発事業」が特例の対象となる事業から外れることになります。

 

「優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例」は租税特別措置法第31条の2に規定されていて、対象となる譲渡は同条第2項に列挙されています。今回の改正直前には18ありました。しかし、大綱にある「特定の民間再開発事業」という言葉は、どこにも見当たりません。この譲渡が優良住宅地の造成等のための譲渡の適用対象に加えられたのは昭和63年のことですが、「昭和63年度税制改正の要綱」(昭和63年1月12日閣議決定)でも、「特定の民間再開発事業の用に供するために土地等を譲渡した場合」と表現されています。そして、昭和63年3月31日に公布された「租税特別措置法の一部を改正する法律」で第31条の2第2項に加えられたのが、次の第5号(当時)です。

 

「五 地上階数四以上の中高層の耐火建築物の建築をする政令で定める事業を行う者に対する第三十七条の五第一項の表の第一号の上欄のイ又はロに掲げる区域又は地区内にある土地等の譲渡で、当該譲渡に係る土地等が当該事業の用に供されるもの」

 

令和5年度の改正直前の時点では第12号となっていました(それまでの改正によって地区の規定などは変わっています)が、この条文の「地上階数四以上の中高層の耐火建築物の建築をする政令で定める事業」が「特定の民間再開発事業」ということになります。

 

ところで、この事業を「特定の民間再開発事業」とするためには都道府県知事の認定を受けなければならないのですが(「政令で定める事業」の要件の一つです)、認定事務に関する昭和63年12月の建設省(当時)の都道府県知事あての文書に「一定の中高層耐火建築物の建築をする事業(以下「特定の民間再開発事業」という。)」という表現が見られます。階数や立地のほか面積などの要件が「特定の」の中に含められているわけです。

 

一方、「既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例」(租税特別措置法第37条の5)については、買換資産の対象となる建築物を建設する事業から「特定の民間再開発事業」が除外されるというのですが、この特例には適用対象となる買換えのパターンが2つあります。そのうちの1つは等価交換事業で利用される「立体買換えの特例」で、一般に「既成市街地等内における中高層耐火共同住宅建設のための買換え」(第1項第2号)といわれています。大綱の表現(この特例を規定している第37条の5の見出しです)から、改正があるのはこちらか? と考えてしまいそうですが、そうではありません。

 

第37条の5第1項第2号の買換えの対象となる資産を条文で確認すると、「当該事業の施行により当該土地等の上に建築された耐火共同住宅(当該耐火共同住宅の敷地の用に供されている土地等を含む。)又は当該耐火共同住宅に係る構築物」となっており、「当該事業」とは、「地上階数三以上の中高層の耐火共同住宅(主として住宅の用に供される建築物で政令で定めるものに限る。以下この項において同じ。)の建築をする事業」です。建築物の要件は政令に委ねられているものの、事業自体に「特定の民間再開発事業」の要素はありません。

そこで、もう1つの買換えである「特定民間再開発事業の施行地区内における中高層耐火建築物への買換え」(第37条の5第1項第1号)の対象となる買換資産について、条文を確認してみます。

 

「当該特定民間再開発事業の施行により当該土地等の上に建築された中高層耐火建築物若しくは当該特定民間再開発事業の施行される地区内で行われる他の特定民間再開発事業その他の政令で定める事業の施行により当該地区内に建築された政令で定める中高層の耐火建築物又はこれらの建築物に係る構築物」(一部省略)

 

「特定民間再開発事業」という言葉はありますが、ここにも「特定の民間再開事業」とは書いてありません。除外される事業があるとしたら、「その他の政令で定める事業」に違いない、ということになります。そこで政令(措置法施行令第25条の4第4項)を見ると、次のように書かれています(改正前)。

 

「法第37条の5第1項の表の第1号の下欄に規定する政令で定める事業は、次の各号に掲げる事業(中略)とする。

一 法第37条の5第1項の表の第1号の上欄に規定する特定民間再開発事業

二 法第31条の2第2項第12号に規定する事業

三 都市再開発法による第一種市街地再開発事業又は第二種市街地再開発事業

 

2番目の「法第31条の2第2項第12号に規定する事業」が、「特定の民間再開発事業」ですね。

 

さて、令和5年度税制改正については、改正された法律はもちろん、政令(施行令)や省令(施行規則)、関係する告示も令和5年3月31日に公布されました。「特定の民間再開発事業」に関する部分を確認すると、租税特別措置法の改正に「第三十一条の二(中略)第二項第十二号を削り、」とあり、同法施行令の改正には「第二十五条の四第四項第二号を削り、」とあります。このようにして、特例の対象から除外されたわけです。

法律の案文や新旧対照表は、法案が国会に提出された後、財務省のウェブサイトで見ることができるのですが、政令や省令については、公布されるまで確認できません(事前に確認できる方法があれば知りたいところです)。通常、政省令などを定める際に行われるパブリックコメントも、税制改正に関しては除外規定が適用されるようです(行政手続法第39条第4項第2号)。そもそも法律も成立していないのに、その成立を前提とする政省令について意見を募ることはできないということかもしれません。

 

ところで、「既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例」の中に、「特定民間再開発事業」という言葉が出てきていました。こちらは「特定の民間再開発事業」とは違い条文に書かれています。「の」のあるなしで何が違うのか、一方は税制上の特例から除外されてしまいましたので、いまさらの感はあるかもしれませんが、次回はこれらの違いについて見てみようと思います。

 

がもよんを歩く〈manabeコラム〉

がもよんを歩く

地下鉄(Osaka Metro)の蒲生四丁目駅で降り、地上にあがると、幹線道路の十字路に出る。
東京で言えば神保町あたりの雰囲気に似ている。高層の建築物が少ないが。
 
しかし、一歩、横道に入るとそこは路地といってもよい道で、せいぜい2階建ての古い住宅地である。この雰囲気は、大地主が一帯を所有していて、大規模開発が出来ていないエリア特有のものであり、案の定、この一帯は「杦田一族」が所有しているとのこと。
 
都市の計画上は、旧地主が持ちこたえられなくなり大規模な再開発が行われるほうが京橋の隣町というほぼ都心にあるこのエリアの発展に寄与するのであろうが、一般的には、地主側の論理は「一坪たりとも土地は減らさず次の代に継承する」であるので、この「がもよんにぎわいプロジェクト」が成り立っていると思われる。
不動産業、コンサルティング業の成功のカギは、大地主をつかまえられるかであるので、そういう視点でなぜ成功したのか、考えてみた。
 
まず、これだけの大地主であれば、当然、不動産業者は大勢近づいてくる。
 
建て替えましょう。新築しましょう。売却しましょう。買い増ししましょう。
 
これらのセールスは耳にタコで、それに付随して銀行、建築会社、税理士等々が様々な案を持ってくるのが、常態である。
 
がもよんの成功=和田欣也氏が杦田氏に入り込めた理由は、まず、不動産業者でないから、不動産の動き(売る、買う、貸す、借りる、建てる)による提案ではなく、古家の再活用といった不動産業者ならかったるくて出来ない角度から提案できたことが、一番であろう。
 
これは和田氏が、耐震金物販売から耐震建物設計という業種であったことが大きい。
 
地主からすると、売ったり、建てたりというリスクがあまりなく、かつ、現状を改善できるというメリットに加え、がつがつとした商売気質(宅建業者は不動産を動かさなければ手数料にならない)がなく信頼できたのでは、と想像できる。この辺のアプローチの仕方は、コンサルティング業を行ううえで、大いに参考になると思われる。
 
*売りましょう、建てましょう=そうしないと業者として手数料にならない。
一坪たりとも減らしたくない、という地主の思いに寄り添っていない。
 
また、30年の長きにわたる景気低迷期を経て、一族の資産状況も疲弊していたとのことで、これも、リスクの少ない事業へかじを切る大きな要因であろう。
 
次に、やはり、和田氏のコミュニケーション力と企画力、といった人的要素が大きいと思われる。そのなかでも、きちんとした形にとらわれない発想力は不動産コンサルティング業に携わる者には大いに参考になると思われる。
 
例えば、各店舗は、「数時間過ごすだけの場所ならいいと思える内外装」であり「自分の持ち物としてずっと暮らすなら不満が出るだろう仕様」である。
コストを考えると、実に正解な仕様である。

昨年度、不動産エバリュエーション事例コンテストで大賞を受賞した名古屋の「名駅二丁目三番街 再生の物語」プロジェクトも、リニア開通までの空地帯となった一角で、数年という短期間で回収するという命題のもと、4~5業態をミックスさせ常にどこかに人が入るという手法が際立っていたが、やはり「借りる側に立った」企画が成功のもとであろう。
 
単価の安いカフェは出店を断るというのも、不動産業なら、「うまくいかないだろうなあ」と思っても、手数料を目の前にして、断れるだろうか。
昼食に入った蕎麦屋は、確かにおいしくて愛想もよく、内装も雰囲気を味わえるぎりぎりのところで、かつ値段はけっこう高い。安くはない。しかも、メニューや雰囲気は、お酒を飲んでもらうところに徹している。

大げさに言うと、ローコスト・ハイリターン狙いである。
また、週に一回、店主会議を開いて、よもやまに良いアイデアがあったら採用し、各店舗の連携も強めていく、というコミュニケーション手法も、不動産業者にとっては苦手な分野ではないだろうか。これは、いろいろと形を変えて使えると思う。
 
最後に、がもよんの将来像はどうなるのだろうかと考えてみた。そのとき、ふと思い出したのが隅研吾氏が何かの本で書いていた「日本の都市の大規模再開発は面白くない。昔ながらのごちゃごちゃした家並みや商店街が、少しずつ変化、改善していくほうが楽しい」という言葉であった。
 
たぶん、経済効率性からすると、ほかのやり方が勝っているかもしれないが、商売している人も、住んでいる人も、遊びに来る人も、土地を貸している人も、みんな面白いと思うことを続けていくうちに徐々に変化し続ける、というのが正解なのかもしれない。
 

 

執筆者

真鍋茂彦 不動産流通推進センター 教育事業部長
公認 不動産コンサルティングマスター

 

 

 

 

建築散歩!No.12「東京国立博物館表慶館」「国立西洋美術館」~マスターと共に歩む、街歩きを兼ねた建築物の探訪~

建築散歩!No.12「東京国立博物館表慶館」「国立西洋美術館」

引き続き、「片山東熊」設計の建築を見ていきましょう。「上野」駅が最寄りの「東京国立博物館 表慶館」です。
これもネオ・バロック様式の建物です。建物の説明は、写真のうちの解説板にわかりやすく書いてありますので、写真を見て(読んで)下さい。
山東熊で取り上げた迎賓館や京都国立博物館東京国立博物館は、いずれも有料ですので、京都と東京の新しい博物館での展示やイベントを確認して、併せて見学されるのも一法かと思います。
また、今後触れるかもしれませんが、上野はその他見どころのある建物(国立西洋美術館/設計:ル・コルビュジエ等々)が多々ありますので、併せて見学されるのも良いかもしれません。

建築散歩!No.12「東京国立博物館表慶館」
建築散歩!No.12「東京国立博物館表慶館」
建築散歩!No.12「東京国立博物館表慶館」
建築散歩!No.12「東京国立博物館表慶館」
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建築散歩!No.12「東京国立博物館表慶館」

建築散歩!No.12「東京国立博物館表慶館」

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建築散歩!No.12「東京国立博物館表慶館」
建築散歩!No.12「東京国立博物館表慶館」
東京国立博物館表慶館
建築散歩!No.12「国立西洋美術館」
建築散歩!No.12「国立西洋美術館」
建築散歩!No.12「国立西洋美術館」
建築散歩!No.12「国立西洋美術館」
建築散歩!No.12「国立西洋美術館」
建築散歩!No.12「国立西洋美術館」

建築散歩!No.12「国立西洋美術館」

国立西洋美術館

 

建築散歩!No.11「京都国立博物館 明治古都館」~マスターと共に歩む、街歩きを兼ねた建築物の探訪~

建築散歩!No.11「京都国立博物館 明治古都館」

引き続き、「片山東熊」設計の建築を見ていきましょう。今回は京都の京阪本線「七条」駅が最寄りの「京都国立博物館 明治古都館」です。目の前にはバス停があり、バスも便利です。

こちらも大阪出張の帰りに寄り道です。この建物はフレンチ・バロック様式の平屋建てです。入口の係員の方に聞いたところ、耐震調査などにより、しばらくの間(開館時期未定)は閉館で内部での展示や見学は出来ないとのことでしたので、写真も外観だけです。

個人的には、外観のなかでも建物正面のペディメント(西洋建築の切妻屋根の妻側下部と水平材に囲まれた部分/日本建築でいう「破風」)を見てみたかったので、寒空の中それでも見学しました。

ここにある装飾は、伎芸天(ぎげいてん)と毘首羯磨(びしゅかつま)という仏教世界の美術工芸の神様が彫刻されています。右側の伎芸天は学問や芸術をつかさどる神様で、手には巻紙と筆を持っています。左側の毘首羯磨は工芸や建築をつかさどる神様で、手には鑿?とハンマーを持っています。

聞くところによると、これは「設計と施工」を表しているのではないかとのこと。日本では江戸時代までは、大工の棟梁が両方の最高責任者でしたが、明治期に西洋建築が入ってきた際、設計と施工は別々のものという考え方であったため、それを表現しているのではないかとのことです。

道路を挟んで、目の前は「三十三間堂」ですので、ついでに見学してみました。お時間があれば、智積院、豊国神社、方広寺などが隣接していますので、ご一緒にどうぞ。

建築散歩!No.11「京都国立博物館、明治古都館」
建築散歩!No.11「京都国立博物館、明治古都館」
建築散歩!No.11「京都国立博物館、明治古都館」
建築散歩!No.11「京都国立博物館、明治古都館」
建築散歩!No.11「京都国立博物館、明治古都館」
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京都国立博物館 明治古都館」