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住文化生む流通市場 ―活性化への3視点

「公益資本主義」では企業は社会課題解決のために存在し、利益はその報酬として得るものという考え方をする。「倫理資本主義」では企業の目的は善行だとさえいう。しかし考えてみれば本来、資本主義はそういうものではなかったか。日本人なら松下電機や本田技研工業は社会に役立つものを造ったから成功したことは誰もが知っている。

では、住宅流通(仲介)会社は社会にどう貢献しているのだろうか。どういう社会課題を解決してその報酬としての利益を得ているのだろうか。仲介会社が社会のためにできること(善行)は主に以下の3点となる。

1 住まいという資産価値の維持・増大

2 住み替え需要喚起による経済活性化

3 私的財産である住宅の社会インフラ化

1は、物件の適正な価格査定が第一条件となる。特に木造戸建て住宅の場合、築20年でゼロとするような安易な査定ではなく、しかるべき査定システムを用いて建物の仕様、断熱性能、リフォーム歴などを的確に評価した価格で仲介しなければならない。さらに、売買契約が済んだら「さようなら」ではなく、仲介した住宅のその後の資産価値維持・向上のために定期診断などを通じて関わり続ける努力が求められている。

2は、人口だけでなく世帯数も減少していく今後の日本で流通市場を拡大していくためには住み替え重要を活発化する必要がある。そのためにはこれからの若い世代の志向に合わせた仲介業務にしていかなければならない。というのもこれから住まいを選ぶ若い世代は「自分の生き方」「働き方」「住みたい街」「住みたい家」の4つを同時に叶えようとする志向が強い。いわゆる「応接3点セット」ならぬ「住まい方4点セット」である。なので、これからの媒介業務はこの4つをどううまくセッティングできるかという高度な仕事であり、依頼者のニーズを的確につかむコンサルティング業務の色合いが濃くなっていく。

3は、日本では住宅を社会の共有資産ではなく、個人の私的財産と捉える傾向が強いがこれでは流通市場の活性化はおぼつかない。なぜならその場合、売り手も買い手も〝損得勘定〟が先に立って円滑な取引が難しくなるからだ。そうではなく、住宅は社会に欠かせない公的基盤という意識があれば、確かに私的財産ではあっても、建物を血族だけでなく第三者も含む次の世代へ引き継いでいくことで建物価値が維持され、国民の豊かな暮らしの支柱になるというコンセンサスが生まれてくる。

そうした国民的コンセンサス(住文化)の醸成を担うのが流通業界である。間違っても売り手が高く売り抜け買い手が損をするとか、その逆とか、まして業者が裏で利益をむさぼるような市場であってはならない。

本多信博氏 

住宅評論家

1949年生まれ。長崎県平戸市出身。早稲田大学商学部卒業。住宅新報編集長、同編集主幹を経て2008年より論説主幹。 2014年より特別編集委員、2018年より2024年6月まで顧問。
著書:『大変革・不動産業』(住宅新報社・共著)、『一途に生きる!』(住宅新報社)、『百歳住宅』(プラチナ出版)、『住まい悠久』(同)、『たかが住まい されど、住まい』(同)、『住文化創造』(同)など
現在、住宅新報に連載コラム「彼方の空」を執筆中。