不確実な時代の成長戦略 ―社員に投資し、複眼での対応強化― |住宅評論家 本多信博

人口減少、少子高齢化、賃金所得の停滞などを背景に不動産業は新たな成長戦略が求められている。そうした中、大手不動産会社が強調するのは〝グループ力〟の強化だ。賃貸、分譲(マンション・戸建て)、既存住宅の仲介などあらゆる住宅ニーズに対応できる総合力をアピールする。国民の多くが将来に経済的不安を抱き、人生設計においても不確実性が高まっている今日、消費者に寄り添おうとすれば当然の戦略となる。

では、総合力の弱い中小不動産会社はどのような戦略をもてばいいのだろうか。答えは、昨今のキーワードでもある「ひと(社員)への投資」である。具体的には一人の営業社員が真に顧客に寄り添う姿勢と〝能力〟をもつことである。たとえば賃貸住宅を探す顧客に接する際、条件にマッチした物件を探すことはAI(人工知能)で簡単に対応できる時代になった。これからは、人間としてできるサービスは何かを考えなければならない。

消費者も100%条件にマッチした物件などないことは百も承知だろう。それを「これ以上希望に合った物件はありませんよ」式の営業トークでなんとなくその気にさせてきたのが従来型の営業ではないだろうか。消費者が営業社員に求めているのはそうしたごまかしではなく、市場の実態について専門家としての見解を聞き、どこで、どう妥協すべきかというアドバイスをもらうことだと思う。

ここまでは、営業社員のコンプライアンスの問題だ。これからの時代、営業社員に求められる能力は実はこの先にある。たとえば、上記の例でいえば、どうしても〝妥協点〟が見つからなかったとき、売買物件はどうだろうかと視野を広げることである。もちろん、顧客の事情にもよるが、「この人は家を買ったほうがいいのではないか」と真に思えるケースもあるのではないか。そのときにためらわずに購入を勧められるだけの売買市場に関する情報と知識を備えていれば、顧客にとっては賃貸市場に限定されるよりも価値の高いアドバイスになるはずだ。

こうしたことは当然売買仲介市場で接客する営業社員にも言えるだろう。「この人はまだ購入は難しいのではないか」と思えるケースだ。要するに、これからは個々の営業社員が倫理観をもって複眼で顧客に接する姿勢と能力を備えることが中小不動産会社にとって最強の戦略になるのだと信じる。その際に欲をいえば、これからは「投資商品」についても情報や知識をもっていれば、顧客の信頼度は一段と高まるだろう。

では、どうすればそういう幅広い知識を持とうというモチベーションを社員に抱かせることができるだろうか。そのためには、会社が社員一人ひとりと面談し、社員がめざすスキルアップ計画を作成し、それを会社が支援していくことで会社と社員は共に成長するものだという認識を社内に確立することである。


住宅評論家・住宅新報メディアグループ顧問 本多 信博 氏

本多 信博 住宅評論家・住宅新報顧問

1949年生まれ。長崎県平戸市出身。早稲田大学商学部卒業。住宅新報編集長、同編集主幹を経て2008年より論説主幹。 2014年より特別編集委員、2018年より顧問。
日本不動産ジャーナリスト会議会員
明海大学不動産学部非常勤講師
著書:『大変革・不動産業』(住宅新報社・共著)、『一途に生きる!』(住宅新報社)『住まい悠久』(プラチナ出版)など
論文: 週刊エコノミスト、業界団体季刊誌など多数
講演: 業界団体、NPO法人、JAなど 。

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